【第63回ヴェネツィア映画祭 コンペティション部門出品】
『河』ツァイ・ミンリャン監督作品。ヴェネツィア映画祭コンペに出品され、カイエ・デュ・シネマ誌トップ10では第10位に選出された。
ミンリャンのフィルモグラフィーの中ではあまり有名なわけではないが、求めているミンリャンらしさが詰まった作品だった。
常連俳優リー・カンションは二役を演じている。一つはトラブルに巻き込まれた行き倒れの男、もう一つは寝たきりで介護される男。カンションのローテンションな演技がこの作品にもう一つ深みをもたらしている。
同性愛、家族愛、異性愛などの垣根を越え、それぞれに愛してはいるものの報われない人々の悲哀を捉えている。個人的には行き倒れの男と成り行きで世話することになる男の同性愛描写が丁寧で非常に好感を持った。
ミンリャンならではの寡黙な作品で、長回しが多用される。これに関してはミンリャンはどれもそうなので特筆すべき点はないが、本作においてもラストシーンを含め画になる画面作りが素晴らしい。
一方でやや映像に頼りすぎな印象も受ける。カンションが二役というのも途中から気付いたし、「これだけじゃ分からない」と思ったところも多かった。ミンリャンファンにはいいが一般観客に不親切。まぁもっともそんなところは気にしていないだろうけど。
非常に静謐で繊細な作品。地味ではあるが、映像美といい語り口やテーマといいミンリャンの全てが詰まったような作品と言えるだろう。