KANA

善き人のためのソナタのKANAのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.1

ずっと気になりつつ、重そうで先延ばしになってた作品をようやく鑑賞。

1984年、東西冷戦下の東ベルリン。
反体制を取り締まる国家保安局"シュタージ"の局員ヴィースラーは、反体制の疑いのある劇作家ドライマンを監視するよう命じられた。
隙を見てドライマンのアパートにはたくさんの盗聴器が仕掛けられる。
国家に忠誠を誓ったはずのヴィースラーだったが、愛し合ったり芸術を語り合うドライマンたちの世界に次第に引き込まれていく…

ベルリンの壁の向こうにあった監視社会の実像がよくわかるし、愛や自由がいかに尊いか実感できる。
今更ながら絶対に観てよかった。

忠誠心が強く、機械のように真面目一筋のヴィースラーがこのミッションを通して知る裏切りの現実。
それは上層部は(東ドイツ)国家のためではなく、自身の出世欲や金銭欲や肉欲を満たすために動いているということ。
自分は一体何をしてるんだろう…
それに対して監視対象であるドライマンたちは、自分たちの理念や信念になんと真っ直ぐに生きていることか。

ちょっとした小細工になんて動じない、ドライマンと恋人クリスタの揺るぎない愛に圧倒される表情がとても印象的。

エレベーターでの少年とのやりとり
娼婦を呼ぶくだり

…こういう何気ないシーンにヴィースラーの人恋しさの芽生えみたいなものを感じ取れる。

キーパーソンでもあるクリスタの秘密と運命…やるせない。
彼女でなく、そうさせてしまった歪んだ社会構造が忌まわしい。

数年を経た終盤の描写には一層引き込まれる。
全てを知ったドライマンがヴィースラーを見つめる視点。
そして次はヴィースラーがドライマンを想う視点。
『善き人のためのソナタ』を手に取り…あぁグッとくる!
映画としては、それまでのすべては心を揺さぶるこの結びのための前振りと言ってもいい。

キャリアが音を立てて崩れた後の暮らしは身も心も相当ハードだっただろう。
でも、自分の意思で行動し誠意や思いやりが相手に伝わったと実感できた時、そんな事はほんの些細なことに感じられたと思う。
シュタージ時代には得ることはなかっただろう、一人間としてのしみじみとした幸福感、生きている実感。
ラストカットの爽快な表情が忘れられない。
KANA

KANA