イカのおすし

殺しを呼ぶ卵のイカのおすしのレビュー・感想・評価

殺しを呼ぶ卵(1968年製作の映画)
5.0
変態マカロニ・ウエスタン「情無用のジャンゴ」で有名なジュリオ・クエスティ監督がメガホンを取った数少ない作品の一つで、「養鶏サスペンス」という誰も思いつかないし真似ようとも思わない唯一無二のスタイルを打ち立てたユニークな奇天烈作品である。

(以下要約=ネタバレ)
養鶏ビジネスにおいても夫としても、勝気な女房に頭の上がらないマルコ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、人知れず熟女系コールガール相手に殺しゴッコをしては鬱憤を晴らす日々を送っている。そんな変態野郎の分際でピチピチの姪っ子(エヴァ・オーリン)にもゾッコンなマルコは、ハッキリとお断りされているのも意に介さず、ボク達ふたりでどっか行っちゃおうよと一方的に駆け落ち宣言。まずは目の上のタンコブである女房を亡き者とする計画を粛々と進めていたら、財産目当ての姪が他の男と手を組んで先に殺しちゃうまさかの事態に。女房を消す手間が省けてラッキーな反面、うすうす気づいていた通りあのチャラ男と姪はやっぱりデキていたのか!と衝撃を受けるマルコ。ショックのあまりボーっとしていたらウッカリ足を滑らせニワトリの餌やりマシーンに落下、自ら飼料になってしまう痛恨のドジを踏んだ上に妻殺しの濡れ衣も着せられてFIN。
(要約おわり)

業務のオート化を促進し社員を根こそぎリストラしたり、遺伝子組み換えによって可食部の多い奇形を生み出す研究に躍起となる企業を通して、行き過ぎた資本主義や合理主義を皮肉たっぷりに描いているが、制作当時の60年代よりも現代の方がリアルに響く題材だと思う。

ただ「情無用のジャンゴ」もそうだけど、クエスティ監督は実験精神が旺盛で隙あらば変なシーンをブッ込んでくるので、社会批判の部分よりも奇妙なアートに触れてしまったドヨンとした後味のほうが強く残る。

得も言えない不気味さに溢れる一方で、エヴァ・オーリンの可愛らしさをはじめポップな楽しさも併せ持つ独特な世界観がクセになり、これまで何度となくDVDを観てきた本作だが、一昨年末なぜかリバイバル上映され、15分ほどの未公開シーンが追加された「最長版」が初公開となった。

宣伝によると、追加された部分は「残酷シーンや異常シーン」との事でおっかなびっくり観たのだが、顕微鏡や実験の資料的な映像、パートのおばちゃん達がニワトリの羽を淡々とむしり取る作業シーン、鶏肉協会のおっさん達が「チキンをキチンと売り込もう」と息まく会議シーン、そして旧友ルイジが何処からともなく表れ「私はだーれ?ここはどこ?」みたいな事を言っては去っていくだけの意味不明なシーン等で、どれも面白みがなくカットされてしかるべき蛇足ばかりであった。

「最長版」は画質の向上が素晴らしいが、内容的にはこちらの旧バージョンの方が無駄がなくて良いと思う。

犬が落っこちてピタゴラスイッチみたいになるシーンは何度観ても腹を抱えて笑う。