イカのおすし

シリアル・ママのイカのおすしのレビュー・感想・評価

シリアル・ママ(1994年製作の映画)
5.0
凄惨な連続殺人という血なまぐさいテーマをこれほど明るく朗らかに仕上げられるのは、背徳&不道徳の限りをやり尽くした変態陽キャ、かのピンクフラミンゴを世に送り出したジョン・ウォーターズ監督をおいて他にはいないだろう。

初期の頃は、雑な作りを過激さで押し切るいかにもアンダーグラウンドな自主映画ノリだったが、ヘアスプレー辺りからモラルへの配慮や作品のクオリティが一般公開に耐えうるレベルに引き上げられ、プロの仕事人として着実にステップアップしているのが素晴らしい(しかし素地は隠しきれず、そこかしこに変態臭が匂い立っている)。

同じように、若き日の狂った作品でカルト映画のカリスマとなったホドロフスキーが、その後もアートに全振りしプロになりきれなかったのとは対象的といえる。

いつも通り舞台がボルチモアだったり、ウォーターズ映画に必ず出てくる鼻の尖ったおばさんや、ヘアスプレーで主役だった子が出演しているのも自分には嬉しい。とくにヘアスプレーの子は今回もちょっとアレなピュアガールを好演、あの切ない困り顔と懐っこい笑顔をたっぷりと見せてくれるのがたまらない。

それとゴミ収集の2人がママを裏切らなかったところも良かった。取るに足らない1シーンではあるが、反骨精神と義理人情というジョン・ウォーターズの変わらない思いが込められているような気が勝手にしちゃって胸が熱くなった。

そして本作で忘れられないのが、息子のバイト先であるレンタルビデオ屋である。棚という棚にビッシリとVHSが陳列された、どこか胡散臭いああいうお店がかつてはどんな田舎にも一つや二つはあったものだが、ネットの普及と共に次々と潰れ、気付いたらこの世から姿を消してしまっていた。

あんな濃密な空間がなかったらタラン某のようなモンスターも登場することはなかったかもしれない。今にして思えば夢のような空間だった。