イカのおすし

ヘンリーのイカのおすしのレビュー・感想・評価

ヘンリー(1986年製作の映画)
5.0
主人公ヘンリーを演じるのが、ウォーキング・デッドのメルルと同じ役者だったなんて全く気づかなかった。冷静なのか直情的なのか、バカなのか利口なのか、マトモなのかキチガイなのか、、恐らくはどれも当てはまるであろう破綻した人格を、デビュー作とは思えない堂々たるふてぶてしさで演じ切り、本作に唯ならぬリアリティを与えている。

事実をどこまで再現しているのか分からないが、本作におけるヘンリーは、幼年期の異常な家庭環境(とくに母親)が原因で女性&性行為に対して恐怖と憎悪を抱くようになり、それがシリアルキラーとしての行動原理となっているように見受けられた。

また、イライラ解消のためや性欲を満たすためだけに人を殺め、それを楽しむオーティスを分かり合えない共犯者として描くことからも、ヘンリーの殺しが快楽殺人の類ではなく、心の闇から発せられるオブセッションであることが示唆される。

そんな彼が、おそらく初めて心惹かれた女性がベッキーだったのだろう。彼女だけは"おぞましい女ども"と同じであってほしくない(あってはならない)からこそ、ネンゴロになりそうな流れを避け続けてきたのだと思う。

2人でトランプをする時のヘンリーはあくまでも淡々としてはいるが、彼女が分かり合える相手なのかを冷静に見定めているようにも見えるし、不安と期待を内に秘めたウブな少年のようにも見える。

一線を越えないギリギリの所で保たれていたヘンリーの初恋も、ベッキーの素直さと情の深さがアダとなり急転直下。最後にスーツケースから滲み出るのは、2人の恋が終わったことを示す記しでもあり、「やっぱり他の女と変わらなかった」という彼の無念でもある。本作は全米を震撼させた連続殺人者にとっての初恋とその失恋の物語とも言えるだろう。

それにしてもベッキーがイイ。
あのナチュラルな気立ての良さに触れたら、希代のシリアルキラーだって心が揺らいでしまうのも無理はないだろう。彼女の存在が本作を名画たらしめたと言っても過言ではない。I ♡ CHICAGOのTシャツ着て缶ビール飲みながら、ベッキーの素晴らしさを誰かと死ぬほど語り合いたい。