雨虎

ブレイブ ストーリーの雨虎のネタバレレビュー・内容・結末

ブレイブ ストーリー(2006年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

宮部みゆき作品は密度が高い作品が多く、120分に満たない映像に収めるという点は難しい。そのため、様々な改変がされているため、原作ファンから見れば改悪と感じる点も多々あるだろうとは思う。
原作ファンまではいかなくとも、原作を知る者からすれば宮部みゆき作品らしからぬ描写が多いような気はした。例えば三谷亘の父、明が母の邦子に一方的な離婚を宣言し、家を出ていくというシーン。結婚前に交際していた人と家庭を持つためではあり、結婚前にその女性と邦子の二人と関係を持っていたという点で不誠実な男である点は間違いない。しかし、邦子も妊娠したと偽って責任を取らせるという行動を取っていたため、必ずしも明だけが悪いわけではないという描写が原作にはあるが、映画にはない。
そういった意味で、この作品は原作ほど充実した密度の高い物語を楽しめないという点が残念ではある。
また、当時はまだ若いウエンツ瑛士が緊張しているような印象を受け、ワタルと対象的な人物だっただけにひどく目立ってしまったのは不幸なことだったように思う。

ただ、悪い点ばかりでもない。
大泉洋や松たか子の演技力は素晴らしいものだったし、登場キャラクターの一人として、十分な魅力を出していった。
また、前述したように密度の高い作品を120分以下に収めた上で改変はあっても綺麗にまとまった一つの物語。『ブレイブストーリー』のIFとして見ても良い部分があるように、酷評されるほどの悪さでもないように思う。
印象的だったのは自分の分身との戦いのシーンで、原作ではこれは憎しみで作られた自分自身であるというものだったが、映画では憎しみに限ったものではない。
そのため幻界の人々の幸福と自身の幸福が天秤にかけることになり、自身の幸福のために他者の幸福を犠牲にして良いのか、自分はそれで満足なのかと問いかける場面はここまで鑑賞した人たちにとって不安となっていた要素の一つだけの強い揺さぶりがあったのではないかと思う。
そして、自己中心的な本心とそうありたい理性の本心との葛藤が丁寧に描かれ、そういった心や気持ちも自分自身として認めて良いもので、どちらか一方が悪だという訳ではないという哲学を表現している点は原作よりも好みだ。
そして、自分の運命を決めるのはあくまでも自分だという自分を見つめるという行為が大切で、どういった自分であれ認めるという勇気にもつながる。目的としたい事は常に一致するわけではない。善く生きるという部分に注目している点も良かった。
雨虎

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