KANA

アダプション/ある母と娘の記録 【4Kレストア版】のKANAのレビュー・感想・評価

3.8

アニエス・ヴァルダと並ぶ重要な女性映画作家、メーサーロシュ・マールタ。
TLに流れてくるまでその名すら全く知らず。
幼い頃に戦争を体験し、ハンガリーとソ連を行き来せざるをえなかったバックグラウンドの持ち主ということで、興味深く鑑賞。

愛する男に「子供が欲しい」と迫る、中年の未亡人カタ。
不意に出会った17歳の少女アンナとの絆も紡いでいく…。

オープニング、真っ暗な寝室のブラインドを上げるも寒々しい枯れ木の景色。
被さる音楽はたまらなくメランコリック。
そして無機質なノイズに包まれた工場で、無心に重労働をこなす女性たちのカットに飛ぶ。
虚ろな顔や荒れた手元のクローズアップ。
…これらの陰鬱なシークエンスでいきなり引き込まれる。

子供が欲しいと切り出した途端に素っ気なくなる愛人。
絶望で魂が抜けたようなカタの前に現れたアンナは、寄宿学校を転々とするアウトサイダーの少女。
若さへの羨望、母性、友情…それらがないまぜになったような複合的な好意がカタの中に芽生える。
不可思議だけど心地よいケミストリーは言葉でなく、2人の表情や視線で伝わってきた。

同じ画角に収まった2人の(鮮度の)コントラストはモノクロでも際立つ。
つまり、その、、カタのたるんでくすんだ肌が、残酷なほどに強調されていた。
アンナがまた芯の強さを秘めた魔性の美しさで。
逆説的だけど、それがカタの人間的魅力を引き出してたような気がする。
この先ただ老いていくだけの希望のない女性としての。

アンナはラブラブな彼氏とどうしても結婚したいけど親の反対でできない。
この子の自由を叶えさせてあげたい!と、奔走するカタの姿が涙ぐましくて。
アンナの両親は典型的な家父長主義者。あ〜胸糞悪かった!

歳の差を超えて苦悩を共有する2人がレストランにて笑顔で過ごすシーンは和やかで、こちらまで胸が躍る。
でも、それも刹那的な安堵感だった。

それぞれの夢を叶えたのに、なんだか無理矢理感が残ってしまうエンディング。
何なんだろう、このうしろめたい気持ちは。
きっと、この拭いきれない不安感が監督の意図なんだろうなぁ…

"民主化"の陰で踏みにじられる女性像。
それが、わびしくもしっとり色気のある演出の中で浮き彫りになった作品だった。
ハンガリー語がとても新鮮に響いた。


p.s. 4K版を観たのでこちらにmark。ん?誰もいない笑
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