EnzoUkai

シークレット・サンシャイン 4K レストアのEnzoUkaiのレビュー・感想・評価

4.9
『ペパーミントキャンディ』をDVDで観てとんでもない衝撃を受け、その後の『オアシス』もDVD。そして、やっとタイミングが合って劇場で観たのはこの作品。
今回、イチャンドンレトロスペクティヴということでスクリーンで見返す大チャンスとして心待ちにしてた。
地方の哀しさで、どれだけの本数を見返すことが出来るか分からないが、可能な限り観たいと思ってる。

初日、『オアシス』で既にKOされてしまった。久々に鑑賞後直ぐに席を立てなかった。劇場を出ても涙が止めどもなく出てくる。キツいのが分かってるからそんなに回数を見てるわけではないが、見る度に覚える衝撃はいつも変わらない。
そして、翌日、この『シークレットサンシャイン』を見る為に再び劇場に。
イチャンドンを、絶大な支持をしてると言いながら私は上記三作品に『バーニング』を加えた四作品しか見ていない。今回、『グリーンフィッシュ』と『ポエトリーアグネスの詩』が上映されるので是非見たいと思ってる。

『シークレットサンシャイン』は鑑賞済みの四作品の中では比較的飛び道具が少ない大人しめの作品かもしれない。
ただ、その大人しめの物語の中の凄まじいテーマ性に心打たれる作品だ。
テーマ性と書いてしまったが、彼の作品のテーマ性の高さは本当に他の追随を許さないものがあり、『シークレットサンシャイン』だけが突出しているわけでは無いが、普通なら描けないようなテーマを見事に具現化してるのが凄い。
この映画にいつも震えるのは、見ている私達に「神」の存在を見せてくれることだ。チョンドヨンの視線の先にあるもの、それは間違いなく「神」がそこに居て、彼女の瞳に映る「神」の姿を見ることが出来る。

こんな仕掛けを誰が考える???

そして、劇中では神に立ち向かうチョンドヨンの姿。
痛々しくも、神に復讐を試みる彼女の姿には、この映画の監督であるイチャンドンの相当の覚悟を感じる。創作とは言え、背徳、冒涜のプロットを描こうとすることに罪を感じないわけない筈だ。
そして、我々観客は、彼が身を挺して描こうとしたスクリーンの中に、畏れを抱かざるを得ない。
やはり、神の存在を感じざるを得ないのである。

また、これも一つ言及しておかなければならないのが、ソンガンホの存在。
俗物の中に見る無垢性。
よくぞこのキャラクターを入れ込んでくれたと言いたい。
見事なトリックスターである。
キャリア的には油の乗り切った時期でもあるソンガンホを狂言回しに使おうとする意図、いや、彼だからこそ出来得る重要な役回り。彼の存在があるからこそ、この映画の痛みが和らぐ。やはりテーマがテーマなだけに緩衝材が必要だし、他の作品よりはイチャンドンの作品のトゲトゲしさを感じさせない。ハードパンチであるのは間違いないが。

『オアシス』では愛の可能性を見せてくれた。『ペパーミントキャンディ』では運命の存在を時間の逆行で見せるという離れ業。『バーニング』はもう完全な幸福論だと思ってる。
もう彼の映画は哲学書か宗教教義のようにも思えてくる。
イチャンドンも他の文芸芸術、知識界の巨匠同様に貴重な人類の宝物だと言えよう。

(他の作品のレビューも書こうと思うが、なんか今更のような気もして、気が向いたら書こうと思う)
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