毛玉

パスト ライブス/再会の毛玉のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.5
メリーゴーランドの前の2人の目線で爆泣き

久しぶりに、誰に出しても恥ずかしくない「良い映画」に出会えました。
「時間」「感情」といった、目に見えない、そして明確に伝えてもいないものが、こうもビシバシと伝わってくる映画は久しぶりでした!

本作は、監督のセリーヌ・ソンの個人的な体験ももとにされているらしいですが、それにしてもこんなにもストーリーやキャラクターにエンタメ性を極力排除して、映像とセリフと音、そしてなにより俳優の演技に賭けた結果、こんなにもシンプルなのに誰もやってこなかった物語が生まれるとは。
もはや映画に限らず、エンタメにおける最重要ポイントを指摘したと言われるマーティン・スコセッシの名言「個人的なものが最もクリエイティブなもの」の最たる例でしょう。もう作り物のクリエイティブは刺さらない時代に突入しているのかもしれません。

『愛がなんだ』の若葉竜也さんの役のような、報われない優しすぎる男が登場すると、圧倒的にそいつに肩入れしてしまう僕ですが、『エブエブ』や本作のアーサーのような、優しい男が最終的にヒロインを抱きしめるという作品が多くなっている印象で、とても救われます。
ただ、本作は、それでも辛い。彼女が泣く時にそばにいてやれるアーサーは、自分と彼女との間に見えない隔たりを感じながら、それでも彼女の笑顔を信じて生きていくのでしょう。アーサー、酒飲もう。今夜は朝まで行こう。

全編最高でしたが、彼女が彼を送っていくところから、涙腺が震えていました。最後には決壊です。
『エターナル・サンシャイン』『ブルー・バレンタイン』『アデル、ブルーは熱い色』『ロストイントランスレーション』、この辺りが好きな方々にはぶっささる内容だと思います。中でも、僕は『エターナル・サンシャイン』『ロストイントランスレーション』の辛さに、とても近いものを感じました。
でも、きっと主人公たちにとっても、僕たちにとってもバッドエンドではないと思います。今回の彼らの人生はまだ、次に出会うまでのパストライブスだと思えば、目の前の人を大切にできると思います。

今のところ、今年のベストです!あの伝説の2分は忘れられません。
期待していただけありました!監督の次回作も、楽しみです!
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