毛玉

オッペンハイマーの毛玉のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
揺れ動く主人公に、時系列を揺れ動く監督に、とにかく揺さぶれる3時間

学生時代の科学者・オッペンハイマーが、何を見ていたのか。彼がどんな人物なのかをサラッと紹介するシークエンスから幕を開けると、ノーラン印の時系列ぐちゃぐちゃ構成のスタート。誰か時系列マップ出してくれ。
加えて、ハイスピードの会話劇と揺れ動くオッペンハイマーを映した素晴らしい撮影と、俳優陣の圧倒的な演技。圧倒されました。

オッペンハイマーの苦悩はとても理解できました。彼がとても人間らしい人間で、もしかしたら、原子爆弾を発明したのが彼で良かったのかもしれない、とよぎるほどです。日本公開に先んじて行われたアメリカのアカデミー賞での、主演のキリアン・マーフィーの姿と、助演のロバート・ダウニー・Jrの雰囲気が、そのまま役割りや作中のセリフに重なるようで、ところどころ面白かったです。

本作を見て何を思うかは人それぞれですが、映画としては、傑作の映画だと思いました。センシティブなテーマを扱っていながら、観客を楽しませることを忘れないノーランのユーモアや、オッペンハイマーの苦悩と人生をごちゃ混ぜにすることで生まれるサスペンス的な香りで、エンタメとしても楽しめました。終わり際の切れ味も健在でしたね。
これまでノーランはどこか「変な映画を作ってファンを喜ばせる監督」のような揶揄をされてきましたが、本作で皮肉屋は黙りそうです。完全にネクストレベルに到達しました。

個人的には、エミリー・ブラント演じるオッペンハイマー夫人が最高でした。あんな女性、好きですねえ。
総じて、めちゃくちゃ楽しめました!やはり日本が出てきた時には辛い気持ちになりましたが、描き方でノーランに落胆することはありませんでした。
なにが影響してこの映画の日本での公開が遅れたのかは想像できますが、本作を見た海外の人たちの新鮮な感想が飛び交う中で、本作を見たかった。世界の感想をリアルタイムで知りたかった。
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