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aftersun/アフターサンのogoのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.2
何となく感動できそうな父と娘の良い話?で観てはいけません。

複雑な構成とメタファーに加え、慟哭しそうなやるせなさに満ち満ちている意欲作。

何故、表題が『aftersun』なのか。

「アフターサン」は、日焼け後ケア用のクリームやローション。日焼け止めではなく、日焼け「後」。その言葉の選択に、物語の、そして人生への視点が象徴されているように思う。

これは、父を失った娘が父の死「後」、最後に父と過ごした時間の思い出や後悔を、その傷を癒す物語なのだと解釈した。

戻らない過去の父×娘が見て感じていた世界、それを見つめ直す成長した娘の視点、3つの視点を意識して観ると、登場人物の感情の機微や変化にビビッドに没入して観れそう。

感情ではなく出来事や描写に注目してロジカルに観てしまうと、「あれ?結局何だったの?」というレベルで終幕を迎えるはず。

一度の鑑賞で全てを味わうのは難しいので、物語が何処へ向かっているのかを理解した上で、二度目三度目を観ると、随分と印象は変わるかと。

娘から見れば頼れる大好きな父。思春期を迎え物語の中でも親から離れつつあっても、娘にとっては父は父。一方、父は娘を愛してはいても、何か複雑な問題を抱えている(金がないことや、謎のギプス、不安定な立ち振る舞い)大人へと成長してゆく娘と、一方で大人として不完全な父親。少しづつ変わりゆく関係性の中で過ごした、最後の時間。

父が何処かで自死を選択したことは、あらゆる不穏な描写や、ビデオテープや絨毯が娘の手元にあることから、明らかではあるけれど、それがいつなのか、それが何故なのかは明らかにされない。

ただ、当時の父と同じ歳になった娘が、心象的クラブシーンの暗闇の中、当時拒否した踊る父の元へ向かい、抱き合うシーンこそ、今作のクライマックスなのだろうと思う。それは、赦しなのか贖罪なのか、答や解釈は観客に委ねられる。

R.E.M.の『Losing My Religion』に、QUEEN× David Bowieの『Under Pressure』と、選曲が神ががっている。

むしろ、それらの歌詞から逆にインスピレーションを得て、組み立てている部分もありそうな程。歌詞を元に捉えると、画面の意図が分かるシーンも。

ちなみに「彼はいいやつ〜」の『For He's a Jolly Good Fellow』は、米英では誕生日ソングの定番。ではあるのだけれど、その定番ソングを父の負の感情に被せてくる辺りも、ズルい。

「11歳の時、どんな大人になりたいと思ってた?」

無邪気でいながら、ブーメランのように鋭い問い。

自分は今、どうだろうか。

長く、大事にしたい作品。
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