蛙

aftersun/アフターサンの蛙のレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
昨年のベストに挙げる方も多い話題作。評判に違わぬ素晴らしさでした。
レンタルで2回視聴しましたが、1回目、2回目それぞれ別の点で驚かされました。

最初の視聴で驚いたのは、極限まで削られた情報。作品の全体像が見えづらく、能動的にのめり込んでいくと、どんどん強まる不穏さ。最後まで観ると、観客へ任せられた物語の余白の大きさ、けれど確信的に想像させられる結末に驚かされました。
私個人の経験とリンクし強く感情を揺さぶられ驚いたのも1回目、これは後述。

2回目は色々な方の考察を参考に鑑賞。1回目では何か綺麗でユニークだな、くらいに感じていたその映像が、物語全体を知ったうえだと、サラッとした細かい点まで意味を持たせている事に驚きました。

1回目も2回目も深い余韻を感じますが、特に理解や解像度が深まる2回目は、より強く作品に惹かれました。

音楽の響き方も見事です。普通より3倍野暮ったく(懐かしく)聞こえる「Macarena」「Tubthumping」そして5倍感傷的に聞こえる「Tender 」「Losing My Religion 」「Under Pressure 」


以下ネタバレと個人的な経験とのリンク(少し重いのと、ウエットなので注意です⚠️)


わたしの母は私が子供の頃から統合失調症で入退院を繰り返していました。そして現在の私には10歳の娘がいます。その意味ではカラムに(ソフィーにも)環境的に近いものがあり驚きました。幸いにも今は家族のお陰で円満に暮していますが。
1回目の視聴の時に感じたのは強い怒り。最期とは言え、娘ソフィーに酷いトラウマを与えかねない行動を繰り返すカラムへの怒り。そして、後から思うのは監督シャーロット・ウェルズさんが(恐らく)亡き父へ愛情を持てる事への嫉妬。私の母は既に亡くなりましたが最期まで、今でも慈しむ気持ちは待てませんでした。

2回目はより強くカラムに感情移入。私がもし(無いと願っていますが)家族と離れる事が有れば。そう考えると恐ろしく、寂しくなりました。

記憶と回顧がテーマの作品なので自分の過去を思い起こすのは当然ですが、自分の生い立ちにリンクする事が多く、より強く思うところがありました。

きっと若い時に観ていたらもっと心乱されたと思います。今穏やかに観れるのは娘達や妻の存在が大きいです。そう思うと、またカラムへの同情と寂しさを感じます。

こういう個人的なリンクは今回はどちらかと言うとノイズに。特別な思いに駆られた作品でしたが、シャーロット・ウェルズさんの非凡な技術や感性で、別のテーマの長編作品を観たいとも思いました。
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