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あなたの微笑みのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

あなたの微笑み(2022年製作の映画)
5.0
映画への愛・映画館への愛・映画制作者への愛。この優しさは、こうでないと、彼でないと表現できない。リム・カーワイ監督、またもやってくれた。

当たる映画に携わる、映画作りで稼いで食っていく、これほど運と縁に恵まれないと(どんなに才能があっても)実現が難しいこともないと思う。それでもデジタル技術の進歩で、今や誰もが映画を撮っては発表することができるようになった。そんな中で「映画館」にこだわり「自主映画」にこだわる面々。「映画で生きること」にこだわる人たち。

そう、「映画」ってまさに「見知らぬ大勢でスクリーンに向き合って、その光景と物語を共有すること」なのだ。「映画」とは決して、その背後にある無数のスランプやハラスメントを当然のごとくあるものとして追認し「そうそうそうなんだよ」と嘯いて「映画ってさ」「業界ってさ」と分かったようなことを言う面々のものではない。リム監督は「映画」を自分の手の内にして、人徳と優しさで治めている。

主人公「世界の渡辺」の「書けない苦心」なんて、もう本編の序盤からどうでも良くなっていく。仕事はあっさりと旅の中に溶けてなくなり、旅が本編の主軸になる。どの街でも渡辺が出会うミューズ(平山ひかる)がとても佳い。同じような顔をしているのに、会うたびに違う女。渡辺は彼女を抱いて泣き、彼女と歩き、彼女と踊る。リム監督、男のほのかな夢をこう描くとはニクい。二人を撮る目線は、スマホ時代デジタル時代の今を生きるおれたちの「目」とほぼ同じで素朴だ。大作映画的なケレンも重量感も完成度もないからこそ、二人が共にいる光景は「まるで夢のようなリアル」として映るのだ。

上映後のトークショーに登壇した深田晃司監督によれば、海外の映画人は日本の「アートハウスシアター」の多さに一様に驚くという。これって、日本人の大衆文化性に直結していると思う。時代が江戸になり、画も噺も師匠に弟子入りして身につけるものもいれば、手前勝手に作っては世に出していく者も多くいた。そこに階級などの壁はなく、みんなで「作ったものを楽しんで」いたのだ。だから、社会の権威側が映画を支えなくても、アートハウスはたくさんできる。デジタルの力で自主映画は細くても多くたくさん生まれ続けていく。

「トップガン」「マトリックス」みたいな大作映画も大好きだ。でも「男と女」「オール・アバウト・マイ・マザー」みたいなヨーロッパ映画も大好きだ。その一方で、リム監督が作る「シネマ・ドリフター」映画も大好きだ。それらは日本映画に染みついてしまった嫉妬や憎悪から距離をとり、たとえお金がなくても、引き換えにある自由と、引き換えても得られない「徳」で映画を実体化させている。リム監督には人と機会と運が引き寄せられている。ニクい。ニクすぎる。

こんな友人がいるんだから、気宇壮大なフィクションから半径5mの生活物語まで、何でも書いて、いずれ映画にしてやろうと思う。それにしても旅したい!勤め人にはそれが辛い。そう簡単にふらりと長旅に出られないのだ。だからこそ、リム監督の映画を見て「旅」するのも良いもんだろうって思うのだ。映画を取り巻く現実は厳しいけど、おれたちはやれるはずだ。
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