daisukeooka

アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスターのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

4.5
もう13年経ってるけど古くない。そしてこの映画が後続する数々の映像作品のためにテクノロジーを生み出している。もちろんエンタメとして優れていることは間違いない。そして物語が何層にもわたる自己投影・自己矛盾・自己批判を孕んでいて、深読みしがいがあるのだ。

「IMAX 3Dを通じてパンドラの世界に浸る観客」と
「アバタープログラムでナヴィの世界に分け入るジェイク」
は容易に重なる。

「地球企業の軍隊」と
「ナヴィ」
この二つの向き合いは

「ハリウッド映画産業」と
「周辺諸国の傍流エンタメ」

「GAFAを始めとする米西海岸ビッグテック」と
「それ以外の従来企業」

なんて世界的な視野のものから

「ショッピングモール」と
「地元商店街」

なんて生活に密着したところにまでその視点を持ってこれる。
「普遍的な価値」を押し付けてくる側と「個々の価値」を守る側との対立と相克だ。

物質的に豊かになりすぎた人々が希求する贅沢は「どんなに傷つけても美しいまま滅びない優しい自然」で、そんな都合のいい話はありっこない。それどころか近年の災害に遭えばわかる通り「自然が優しいなんて、とんでもない間違い」。この映画はそんな殺伐とした現実から一歩遠ざかって、閉ざされた映画館という環境の中で「素敵な自然とヒロイックな感動」を与えてくれるわけで、面白くて楽しいだけでなく、まさに癖になる茶色い炭酸ドリンクのような「危ない美味しさ」を秘めている。

現実の世界中で戦乱が起こっていて、いったいどうすれば治まるんだろう? パンドラから撃退された企業の責任者は「これで終わったと思うな」と捨て台詞を吐いて去る。また来るのか? 一緒に観たパートナーはジェイクを付け狙った大佐を「あれプーチンそのまんまやん」と評した。憎悪を動機にした人間は滅びるしかないけど、それを救う方法を提示するのは難しい。

脅威を孕む自然、戦乱が見せるアクション、どれも娯楽の大きな要素だけど、現実に一歩戻れば、観る側の生活を半端なく脅かす。観た後の感想のやりとりは、災害の話にも戦乱の話にも派生して終わらない。ある意味とても「教育的」な映画なのかもしれない。そう。映画でさえ「終わっていない」。そう簡単に終わらない人生は、いつ災害や戦乱に見舞われるか分からない。

そんな会話にさえなってしまうくらいの「迫真」をこの映画はテクノロジーの極致で描いて見せた。現実の世界とこの映画の「合わせ鏡」の間にいる我々に、「アバター」は絶えない問いを提示し続けているように思えるのだ。
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