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マルクスは待ってくれるのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

マルクスは待ってくれる(2021年製作の映画)
3.5
[ベロッキオ、双子の弟に向き合う] 70点

マルコ・ベロッキオが自身の家族を撮ったドキュメンタリー。彼が29歳のときに亡くした双子の弟カミッロについて、生き残った家族たちが思い返すという内容。才能に溢れる兄ピエルジョルジョと優秀すぎる双子の兄マルコに対して、平凡なカミッロは人生を迷い続けたことが明かされる。兄妹はてんでバラバラの方向を向いてそれぞれが独立して生きていたと語られる通り、ベロッキオ家のメンバーの記憶はだいぶざっくりしていて、カミッロの当時の恋人の妹という距離感の女性が推測ではない生身のカミッロを一番覚えているという奇妙な捻れ具合が妙にリアル。兄弟に最も多くの影響を与えたのは、理由は明かされないものの狂ってしまった長男パオロらしく、いつも大声で独り言を話していたという彼と同室で寝起きしていたカミッロには直撃で影響を与えていたなどと家族を分析しているが、年月が経っているからか…というより当時からそういう感じだったんだろうけど、どこか他人事というように分析していくのが悲しい。特にマルコ本人はカミッロからの手紙も全く覚えてないし、カミッロについても彼の恋人アンジェラに何も聞かないまま彼女は亡くなってしまったし、そりゃ息子ピエルジョルジョと娘エレナもあんな激渋な顔しちゃうよねというくらいにカミッロと距離がある。『目と口』はそういった罪悪感のまんま裏返しなんだろうし、他の作品でも多くその罪悪感が滲み出ているように感じる(これについて神父に"スクリーンが懺悔室の格子のようだ"と言われている)。あと、ベロッキオ作品に特に多い父親との関係の拗れと狂人や精神病との距離感というのも、全て家族に起因しているようだ。中学時代に死んだという父親の強権的な態度(これがある意味でカミッロの死期を早めたようなものだ)、幼少期の兄妹の意識を常に圧迫していた長兄パオロの狂気が計り知れない影響をマルコに与えたということがよく分かる。
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