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PLAN 75のdaisukeookaのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.8
倍賞千恵子の演じた役柄…良き日本人、良き高齢者。ちゃんと生きているにも関わらず、孤独と貧困に追いやられてしまった人。作り手の観察と研究がこの造形にまで持ってこれていて見事。カメラはひたすら生活目線、起こっている出来事の一つひとつ、現場に立つ人たちの言葉も「そのままであるように」気遣いがなされている。

ある意味、国も無策なら、国民も無策なのだ。国は少子高齢化に歯止めをかけられず、国民は変わる世情に抗う術を編み出せなかった。目の前の課題を先送りし続けて、行き場がなくなってしまっていることは国にも国民にも共通している。

IF物語として、この「社会から高齢者を排斥する」というテーマは今後も幾度となく出てくるだろう。その中でも日仏的・文芸的な描き方を採った極北の作品だと言えると思う。カットは長く、音楽はアンビエントで、結末はオープンだ。抑えた演出を通じて、観客に問いを投げている。

「PLAN75」を進めることで国や社会はどう変わったのか。ニュース音声で「PLAN75の65歳への引き下げを…」と聞こえた様だが(あえてクリアに立たないくらいのレベルにしてあったのか)、と言うことは、PLAN75は上手くいっていたのか、もしくは実はPLAN75だけでは焼け石に水で65歳まで引き下げないと効果が出ないと試算されたのか、この国の政府のやることなら後者なんじゃないか。そう想像させる差し込みが効いていた。そんな中でもヒロム(磯村勇斗)や瑤子(河合優実)ら若者たちは政府に惰性で使われていく。となればひどいディストピアだろう。

一方で「PLAN75」を「未来世代のために、いったん政府が悪者になってでも社会保障を立て直すのだ」という使命感を持って成立させた人間たちもいるはずだ。彼らの言い分だって聞いてみたい。

ミチ(倍賞千恵子)のような人がいる一方で、PLAN75を選ばずに人生にしがみつく人や、迷っている高齢者を鼓舞して面倒を見る老資産家などが出てきても良かったのでは。こんな世界の中で、疲弊と絶望の中で安楽死を選択する高齢者もいれば、そんな選択肢などお構いなしでスマホも習えばPCも駆使して仕事を漁って人とつながって食いつなぐしたたかな高齢者もいる、そんな「世界」を描いてほしいという思いが生まれてきた。国や社会に対する漠然とした疑いの念、社会の枠外に出されてしまう人たちへの憐れみなどは映画から感じられる。でも、人間がよりしたたかに賢く強く生きられることへの期待をこめて欲しかったとも思うのだ。観後感は、NHKのドキュメンタリーや新聞などの調査記事で描かれた高齢者の閉塞した生活を知ったときと、さほど変わらない。上でも下でも「さらにその先」を描いてほしかった、というと酷だろうか。

この映画を観て「この国はきっとこんな風になる。国はダメだ。政府はダメだ」と他責的に考える人と「自分はこんな高齢者にならない(ようにがんばる)」という人とに分かれるだろう。観た後に議論を呼ぶ映画であることは間違いない。若い近親者などの身寄りがいない孤独な高齢者が、自分で適した施設を選んで入居し、過不足なく利用料を支払って、施設の職員の方とも良い関係で、看取られて旅立つなんて整った例は、果たしてどれくらいあるんだろう。制度はともあれ「どう死ぬか」を思い描いて、そこに向かって生きていくのは自分でしかない。危機感と勇気の両方を駆り立てられる。
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