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ヘルドッグスのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

ヘルドッグス(2022年製作の映画)
4.5
観ないとマズい感が宣伝の頃から横溢していた。自分の中の「逸脱者へのコンプレックス」が刺激されてたまらないのだ。枠の中にいるままこんな年齢まで来て、何をどうすれば挑めるのかさえ分からずに日々の歩みも見えないくらい小さい。激情と本能をドライブに知恵と謀略を巡らせる男たちの死闘絵巻は「お前にこんなのは出来ないよな」という挑発を突きつけてくる。

台詞は速い、情報量は多い、キャラは多くて濃い、その全員が物語の中で機能している。原作未読だが、少なくとも映画はスタイリッシュだった。暴力組織のアジトのスタジアム、ボスの秘書が謳うオペラ、カチ込む敵の組はまるで特殊部隊、クラブのお姉ちゃんまでガチの格闘。物語とキャラと画作りの全てに「スタイル」がある。妥協せずに「貫ける」のは生半可な仕事ではない。

そしてもちろん岡田准一。「来る」以来のダークキャラ。息するように滑らかに出てくる「打・投・極」は重さと痛みを伴っていて、ハリウッドの擬闘とは一味違う。この酷薄さを身につけるために、どれくらいホンを読み込んで、憎悪を自らの中に植えこんだんだろう。恐るべき想像力だと思う。自分にとって大事な人間を奪われた怒りや憎しみは、本当に、想像以上に重くて辛いのだ。「出月」としての復讐を済ませた後も汚れ仕事を負い続ける「兼高」その決意は半端ない。このキャラを造形した映画・体現した岡田准一がもう「半端ない」のだ。

そう、邦画でもちゃんと「バイオレンス」できるのだ。ハリウッドがポリコレに染まっている間に、こちらでバンバン作って追いついていけばいい。映画より酷薄な現実はいくらでもあるのだ。バイオレンスは麻薬だ。人間の中に間違いなくある。それを映画が肩代わりする。この映画の中のバイオレンスには現出してしまう理由がある。ちきしょう、バイオレンス映画、もっと観たくなったぞ。

ちなみに、室岡が仕事を離れてつるむ若者たちのコミュニティにも興味がわいた。「犯罪加害者の子どもたち」…生半可な覚悟で描ける対象ではないような気がする。彼らのエピソードは原作で続くのだろうか。

パンフを読めば監督は「コロナ禍の中粘りに粘って作り上げた」と書いてあった。スタッフをつなぎとめるために大枚をはたいたのではないだろうか。そうであってほしいし、そんな出費をも軽々と回収してほしい、そんな熱い思いにもなる快作だ。
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