daisukeooka

ハケンアニメ!のdaisukeookaのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.5
ポップなポスタービジュアルで裏切られるだろう、中身は鋭くて振りごたえのある一太刀だ。ラブなんか一切ない…あるとするなら作り手の仕事への愛。この映画の中で「大手が安定を捨ててリスクを採る」決意が、その愛の象徴だ。

アニメを制作する現場の物語を実写映画として制作する。このメタ構造がたまらない。シリーズアニメの制作現場を描く実写映画の中で描かれているアニメは、片手間でなくホンモノのクオリティだ。そして描かれている現場と同じ構造と熱さで、実際の現場も動いていたんだろう。観る側に分かりやすく・かつ現場を踏んだ人間にも納得できるリアルさ・そのちょうど良いところに描写を持ってこれている。けれど、踏み込んでほしかったところもある。

それが挫折者だ。「好きを貫ける」だけでいかに恵まれていて幸せか。劇中で斎藤(吉岡里帆)が「私は彼と仕事が出来て幸せですよ」と言い放つ。その「幸せ」を別の角度からも捉えてほしかった。才能のあるなしに関わらず、仕事への思いは熱くて、けれど何かが上手くいかなくて、思った仕事に就けていないまま生計のために業界に粘って残っている人間の方が、実は圧倒的に多い。そんな人間たちが、少なからず斎藤のような人間を支えていることも伝えてほしかった。映画に描かれている範囲内であれば、斎藤は誰から妬まれても憎まれても邪魔をされてもいないのだ。それはとても幸運なことだと思う。

かといって、そこに気付ける観客がどれだけいるだろう。リデル監督・王子(中村倫也)、彼を支えるP・香屋子(尾野真千子)、サバク監督・斎藤を導く行城(柄本佑)、そして彼らを取り巻くスタッフの面々、宣伝や商品化や聖地自治体の職員まで、誰もが疑いなく仕事に取り組む。ゴールへの不確定要素は王子の葛藤・斎藤のプレッシャーのみ。逆に言えば、そこさえ克服・突破すれば「抜けられる」そんなドライブ感を物語が獲得していて、観る側の気を逸らすことが一切無い。

そして序盤から、アニメ制作会社の作画現場を真俯瞰PANで見下ろす長回しワンカット、原画の封筒が進行さんの目線で現場内を走り回るワンカット、そんな密度と緊迫感あふれる現場から、秩父の廃校を再生した作画会社の牧歌的で穏やかな現場まで、画作りがきめ細やかで見ていて愉しい。場面が変わるだけで「物語が動く」ことを知らせていて、脚本と演出が密に噛み合って前進していて単純に気持ちいい。

どんな仕事もたった一人ではできない。象徴的なのはラッシュチェックに向かうスタッフ陣の歩きのワンカット。あんなふうに、共に「好き」に取り組める仲間が欲しい。「好き」と「仲間」を探そうと心から思わせてくれる強い映画で、単に職場の様子がわかるだけのお仕事ムービーに留まっていない。時を置いてもう一度見たくなるだろう。

劇中で空を飛んで競うサバクとリデルは、現実ではハケンとシンなのかもしれない。
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