Oto

First Love 初恋のOtoのレビュー・感想・評価

First Love 初恋(2022年製作のドラマ)
3.5
満島ひかり&佐藤健と音楽の魅力に全頼りしているのがずっとCMを観ているようで、「安心して見られるものの新しさには欠ける」印象だった。
なので4話終了時点でもういいや...となってからは、禁断の1.5倍速で流れだけチェックしようとしていたけど、予想外に6話あたりから面白い。そこら辺からフィクションと割り切って観れた。
8話の主題歌の使い方とか完璧だし、「初恋」を叶わなかった夢の象徴として描く物語なんだな〜と理解した。

やっぱり中盤の大きな事件で視聴者の生活の近くにある物語からかなり遠ざかってしまってるところはあって、日常の物語として始まってしばらくフリを続けたのに一番の問題が非日常的な事件によって生まれるというアンバランスさが課題なのかもしれない。そこをもう少し緻密に描写してほしかったと感じる。「ドラマでよくみる」ありきたりな表現が多すぎた。

あとはドラマって映画には描けないバックグラウンドを描けるという良さがあるけれど、今作では現在と過去のシーンを無理に分けたことで、応援・感情移入しづらくなっている部分もあって、中盤もそれで離脱したのでなかなか難しいなと思った。silentの後半の失速もこれが原因だと思っているので、回想が多いドラマの傑作って作るのかなり難しいんだろうな。

とはいえクリフハンガーは上手だし、「?」を提示しながら進むので、年末年始にみるにはベストなドラマなんだろう。



良かったところ

・札幌とレイキャビクいう実在の都市で、実在の時代を描くという予算の掛け方は確かにネトフリにしかできないものだし、そもそも俳優が豪華。
脚本家や満島ひかりをはじめとして、宇多田ヒカル世代のキャスト・スタッフが集合しているのもいい。

・離婚した夫婦の子供のインサイト、親という生き物の過剰な心配と面倒くささ、御坊ちゃまの医者の嫁やシングルマザーの苦労を丁寧に描いてるのがgood、時を跨いだ手話のコミュニケーションもgood。

・画面のルックも美しい。普段は案の定CM仕事が多い撮影監督みたい。

・「それが本物なら必ず誰かに発見される」も刺さった。見つけてもらいたい人に見つけてもらうためにつくるみたいなもんだよな。3年後ですでに成功してるの結構許し難いけど。

・晴道、事故の原因を間接的に作ってるし彼女の存在隠していたしいるのにキスするし、応援できるギリギリのラインなんだけど、主な障害になっているのが実はやえの母だったり、やえの大学の先輩がめちゃめちゃ嫌なやつなおかげでギリギリ応援できる。。

・クズの先輩たちに言った自衛隊に対する考えが、その後の回想で回収されるの綺麗。国を守るのは大切な人を守ること。

・猫背椿、ヒロインの同僚の理解役をもう20年以上やっててすごいな...。

・晴道一家いいよね、岡部さん2022年日本ドラマの顔と言っても過言じゃない。

・列車と記憶がつながるの『エターナルサンシャイン』を連想させて、ジャンルやトーンはかなり違うものの、テーマや題材など一番の類似作品と聞かれればあれかもしれない。終盤空港に走ったり地元帰ったりして『東京ラブストーリー』みたいになってたけど。


好きじゃなかったところ

・タイタニックの沈む船のように「いつか終わるとわかっている恋」、タクシー運転手になった女性の思い出回想、コロナを含む実在の時代の回想。『ちょっと思い出しただけ』とかぶりすぎてない…?

・「雪の中の青」モチーフとか手話、1話ごとに別の回想、夏帆の叶わぬ片思い、コンポタージュやスピーチはめっちゃ『silent』だし、佐藤健×戦闘機は『トップガン』の流れで見てしまうし(というかマーヴェリック引用してるし)、どうせみんなこういうのが好きなんだろ?って提示されてる感じがしてしまう。たまたまタイミングが悪かっただけだとは思うけど。

・うちの母も宇多田ヒカルめちゃ聴いてたらしいし、音楽と記憶のリンクが強烈なのは共感するけど、『糸』『雪の華』『小さな恋のうた』…ヒット曲の映画化って思い出ビジネスみたいで、そこからなかなか新しいもの生まれないような気がする…。

・自分もRADとかBUMPは貸しあったりしたけど、やっぱりこんな強い記憶はなくて、クラスの中心にいる人の物語という感じ。前半特にストーカーまがいのアプローチが許されてるのも、美男だからだろって気がしてしまうし、後半もモテすぎている(忘れた上で好きになってもらってるけどそれもモテているからだし)。その上に大事な人傷つけられた時だけ喧嘩するという優しさもあって何も勝てない。

・特に気になったのが、やえの大学時代の回想がありきたりなシーンのオンパレード。大学生活、嫌な先輩、交通事故、手形がつきまくった「記号」を提示されて、みんなこれでいいのか?

・記憶をなくした後の友人との再会も、積み上げがないので全く感動や悲しみが伝わらない。どこかで一度出てきたな〜という程度だし、医者との馴れ初めもあんなに省略しちゃっていいのか...?さすがにもう少し丁寧に描いて欲しい。ストーリーじゃなくて年表のように出来事が点在してる。

・会話もベタで、『花束〜』はどうでもいい会話に聞こえて実はすごく工夫がされたことを対照的に気づく。名のない役者が演じていたとしたら見てられないと思う箇所がいくつか。

・モチーフについては、火星は「たまに近づく」ことの象徴で、CAとパイロットという空の人たちを表すのだろうけど、定時の順序もう少し工夫できたのでは...?いまでも回り続けてるとかタクシーにかけて言われてもなんやねんってなってしまったのでもったいない。

・結末はどういうこと...?あの場はCAと偽って乗ってしまったということなんだろうか、最後もそれっぽい格好だったけど正式になったということかな。あるいは夢だけどそれはなさそう。

・最後にやえのお母さん回収しても良かったと思うな、あれだけの因縁を置き去りにしていいのだろうか。
Oto

Oto