Oto

侵入者たちの晩餐のOtoのレビュー・感想・評価

侵入者たちの晩餐(2024年製作のドラマ)
4.4
見事だーーめっちゃ面白い…。らしさ全開のオフビートな会話劇と、斬新なストーリー構造の発明の組み合わせで、新しい境地に達している。
こういうミニマムでユーモラスな物語が作りたくて映画や脚本の学校に通っていたので、悔しさすら覚えている…。

基本は『パラサイト』の構造で、「貧乏な家事代行社員たちが、贅沢三昧の社長の家に侵入して、脱税を暴こうとする」という設定で、まぁその時点でかなり面白い。

①その上で、シーン単体を取り出しても全てがユニークで面白い。脱力的な会話に起因していると思うけど、「呑気な主婦が犯罪をする」っていうコントというが土台にあるので、セリフがパンチラインだらけだった。
個人的には「一応トータルでプラスにはなってるんじゃないかなと思うんですね」「キモいし怖い」がベスト。非日常的な出来事が起きても、日常を崩さない3人組に笑ってしまうんだと思う。

②あとは、斜め上に展開し続ける構造がやばい。水ダウの「帰宅したら家に人がいる」ドッキリを重ねているようなプロットだけど、本当に巧妙だな〜と唸るシーンが何度もあった。
まず「このままじゃ悪いから掃除しよう」と言いだすのがこの作品のキモだと思うけど、その後も侵入が成功してもバレてもあんまり物語が膨らまないけどどうするんだろう?と思ってたら、Uber配達員を見事に使って、コンシェルジュと不倫夫まで効いてきて、最後には脱税も回収するという完璧な脚本。

バカリズムの創作にはどんなバックグラウンドがあるんだろう?と思って調べてたけど、手塚治虫の影響が大きいということくらいで、あんまり出てこないんだけど、やっぱりコントの経験が大きいのかな〜〜。
実は映画の基本もしっかり押さえていて、ミッドポイントで社長が帰宅しているし、ビリーワイルダーが言う「主人公を最悪の状況に追い込め」ということも徹底している(別の侵入者がいる、閉じ込めたのに出てくる、家主が帰ってくる、恋愛沙汰で揉めだす…)。

映画学校で「ストーリーを考えるな、出来事を考えろ」というのをひたすら言われたけど、本当にそうだなと実感させられて、どう帰着するか?みたいなことはあんまり大事ではなく、どう脱線するか?の方が大事だなと思った。
ジャームッシュもカサヴェテスも今泉力哉も山下敦弘も、結局リザルトよりもプロセスのいわばどうでもいいところをいかに魅力的に描くかという作家でないとこういうものは生まれない。

全員に隠し事や弱みがあって、「善人」が存在しないというチャーミングなキャラクター造形も素晴らしい。給料に不満がある、借金がやばい、夫の不倫が許せない、推しに近づきたい…みんなに人間的で切実な悩みがあって愛せる。
ひとつ気になったのは、菊地凛子がなぜあんなに鼻炎だったのか。「一般人」に近づけるための演出だったということをインタビューで言っていたけど、あれは流石に何かあるな〜と思ってしまった。

よく考えたら結構無理がある場所も多いんだけど(全員同じ時に鉢合わせる?ちょうど夫と不倫してる?)、まさに「どうでもいい正解を愛するよりも面白そうなフェイクを愛せよ」って感じだな〜。「リアル病」にならずに遊び心持っていたい。
Oto

Oto