1234

わたしは最悪。の1234のレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
5.0
池袋、新文芸座にて。

1メートルの舞台を、2時間かけてゆったり歩くと、
「歩く」という行為の意味が変わるのですね。

この映画が12章にも分かれているのは、主人公の意識の流れを丁寧に追うためだと思います。

「最悪な自分」とは、
もうひとりの自分のことでしょう。

自分が見ている世界を
言葉が先取りしてしまったとき、
自分は死ぬまで自分の脇役でしかない。

「最悪な自分」の仮面を被ることで、
どこかに「普通の自分」がいてくれるだろう。
そんな実感が、ときにあります。

たとえば離婚した両親が、
離婚後も「仲良し」に暮らす家庭があって、
子どもがもしそんな両親を認めたら、
その子にとって家庭などというものは、
この世界のどこにも無くなってしまうように。

そんな子は「最悪」にでもならないと、
きっと自分を保てない。

親が子どもを持つことがこの映画の一つのテーマです。
でも子どもはいつ、大人になるのでしょう。

誰からも指示されずに、
自分の人生を選ぶときでしょうか。

では「自分の人生」とは何でしょう。

答えは「最悪な自分」だけが、
知っているのでしょうか。

きっとその自分はこう言うはずです、
時間が欲しい、と。

わたしもある人が「明日までもたない」と聞いたとき、
とても会いたいのに、夜通しやっている映画館に自ら入ったことがあります。
映画の内容なんてどうでもよかったです。
会うと嘘になる気がして。
最悪ですね。

目の前の現実よりも、
より自分に肉薄した現実を感じたいときが、
やっぱりあって。

そういう時間は、
人生のなかではきっと限られている。

この映画が持つ共感は、きっとそこにあります。
1234

1234