hikarouch

プロミシング・ヤング・ウーマンのhikarouchのレビュー・感想・評価

4.1
もっとエグい描写のある、目を覆うような作品かと思って勝手に身構えていたけれど、残酷描写などはほぼ皆無で、存外に良い意味で見やすい映画だった。

逆に、直接的な描写がないため、主人公がなぜここまで思い詰めているのか、復讐に遭った者たちがなぜここまで打ちのめされているのかを理解するには、それなりの想像力を要する。そこをちゃんと捉えられないと、なんか面白いサスペンスだったけどちょっと彼女の言動には感情移入できないよね、みたいな軽い印象になってしまう気がする。

主人公の復讐行動が始まる瞬間に「I」「II」とカウントが表示され、「ドゥーーン」と重低音が鳴るのが、さあ始まるぜーーという感じでアガる。そういう分かりやすい盛り上げ演出も、ダサくならない程よい塩梅。
要所でかかるパリス・ヒルトンやブリトニー・スピアーズも、色々と彼女たちの背景まで考えると、本作のテーマに繋がる非常にパンチの効いたチョイスで良かった。

プロット自体のツイストもとても良くできていて楽しめた。終盤でとあるビデオが再生されて、ある真実が明らかになった瞬間の、劇場全体が息を呑むような雰囲気はとても良かった。劇場でみる映画はこうでなくちゃね。

(ここからややネタバレ。)

クライマックスのラスボス戦。ここで初めて、これまで全く描写されてこなかった、男性による女性に対する暴力、圧倒的な力の差がどういうものかというものが、観客に見せ付けられる。このために、ここまで直接描写がなかったんだろう。
最初は、別の物的証拠もあることだし、彼女はここまでする必要はなかったのでは、と思ったが、自らの身を呈して事件化することで、過去の証拠も揉み消されることがなくなるという、あわせ技一本だったのかな。ただ、あのやり方だと、あまりにエンタメに振り切って嬉々として復讐に臨んでもいるように見えるし、相手側には正当防衛を主張できるスキを与えてしまっている気もするんだけど。

ちなみにこのPromising young womanというタイトルは、2016年に実際にあったスタンフォード大生による性的暴行事件の犯人が、禁錮たったの6ヶ月という判決になった理由を判事が"He is a promising young man"(前途有望な青年)だから、という発言をしたことへの皮肉になってるらしい。

あと最後に、このトリビアがなかなか衝撃だった↓
Bo Burnham actually drank Carey Mulligan's spit in the coffee shop scene.
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