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生きるのhikarouchのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
3.8
作り手の人間に対する理解が深いなと感じる。最後、市民課の面々は通夜の場ではノリで調子の良いことを言っていただけで、心根は全く変わっていないというところが、非常に悲観的かつ現実的で、甘っちょろくなくて良い。でも全員がそうではなく、ちゃんと響いている人もいた、というのもまた良い。

志村喬演じる主人公は、別に他者からの評価など意に介してなくて、事を成すというその一点に生きる意味と価値を見出していたというのも良い。

職業観、人生観が清々しいほどストレートに描かれている感じ。また親と子の分かりあえなさの表現も、同時代もう一人の巨匠の小津安二郎とはまた違ったアプローチで非常に面白い。

若い女に執着するオッサンをちゃんとキモい存在として描いているのにも好感が持てる。ここら辺は「めまい」とは違って偉いね。

数年前まで戦争を経験した当時の世代が、余命宣告されれば我を失うほどにショックを受けたり、そうでなければ自分が死ぬことなんて微塵も思っていない感じが現代と大して変わらなかったのは意外で興味深かった。今よりも遥かに死が身近にあり、自身や近親者の死なんて大したことないのかとも思っていたけど、全然そんなことなかった。

うさぎぬいぐるみのメタファーとか、喫茶店のハッピーバースデーが象徴する生まれ変わりとか、映画的な演出も良い意味でベタで良かった。
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