hikarouch

悪は存在しないのhikarouchのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
やっべえぞ。こりゃやっべえ。ラストでぶっ飛ばされたわ。

分かり易い三幕構成の中で、僕は圧倒的に第二幕が好き。住民説明会おっもしれえ。この芸能事務所のマネージャー役の男性、演技巧すぎる。上からやらされてる面倒な仕事ゆえに雑な準備で臨んだプレゼンで、オーディエンスからボコボコにされてるときの顔、まじであんな顔になるよな。しかも横に後輩もいてメンツも立たないしという。僕も仕事でああいう顔してたこと何回もあるわ。脇の下からイヤな汗かいてるんだろうな。
でもまあ、こういう場であそこまで明確に論点を捉えて主張を言語化して説明できる住民なんて、実際には滅多にいないだろうな。リアル世界では、こういう杜撰な中身でもなあなあで計画が進んでどこかで行き詰まったり実際に問題が発生したり、互いに論点がすり合わないままドロドロに揉めたりってなるんだろう。だから、この作品の住民の人たちはマジで優秀だなっていう、どうでも良いところで感心してしまった。
zoom会議も車内の会話も第二幕の会話シーン全部面白かった。

でも、濱口竜介の作家性とか、この映画の美点は第一幕と第三幕なんだろうなあ。なんか、「この作品の良さが分からないやつは"もぐり"」みたいな空気は感じちゃうんだよね。ユニークだし、興味深い作品だとは思うけど、それなりに不完全なところもあるとは思うんだよな。序盤の二人の登場人物たちの演技と台詞回しとかちょっと見てらんなかった。不自然に寡黙で、不自然に無表情で抑揚が無いのよね。「それって、味じゃないですよね」だけは面白かったけど。
この人たちは、都会の喧騒や焦燥から離れて自分たちが好きで田舎暮らしをしているのに、ちっとも楽しそうでも幸せそうでも無いのも気になったんだけど、逆にリアルだったりするんだろうか。もう少し笑って暮らせないのか。

観たあとで知ったけど、本作は企画者である石橋英子の演奏のバックグラウンド映像になることが決まっていたため、音声抜きにしても作品としての価値が保たれるように作られているらしい。これには非常に合点がいった。

ラストの超展開はなかなかに衝撃的だった。「え?え?ええ!」ってなって映画が終わった。敢えて解釈が開かれた表現になっていたので「あれはこういうことだと思う」という"予想"には意味がないとは思うけれど、それにしてもあの父親の行動原理がどういうことだったのか、今のところ全然分からないので、このあと解説やレビューを当たってみる。
「悪は存在しない」ってタイトルも、たしかにそれが描かれている作品だったとは思うけど、ラストを見たあとの余韻とはギャップを感じるんだよね。そこじゃなくない?という。
このあたりもスッキリするような解説に出会えたら、自分の中での作品評価も数段上がる気がする。監督いわく、仮タイトルがそのまま本タイトルになったらしいので、そこまで気持ちのよい説明もつかないのかもしれない。
あ、でも「EVIL DOES NOT EXIST」のタイトルの出方はすごくかっこよかったな。

最後に(特にこういう作品では野暮なツッコミだとは思うけれど)どうしてもノイズになっちゃったことがある。それは、「自然と暮らしているあの父親が、まだ幼い娘を、学童保育からひとり帰りさせるわけないだろ!!」っていう。さすがに、ねえ。


なんだかんだ、劇場で観れてよかった。所用があって渋谷近辺に行ったので、「ここだ!」と思ってル・シネマに飛び込んだ自分を褒めてあげたい。
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