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パスト ライブス/再会のhikarouchのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0
良かった!でも、ちょっと期待し過ぎたかも!
前評判を見聞きして、見る前から「これは自分の今年ベスト級の作品かも!」と意気込み過ぎたのが良くなかった。

前世からの深い繋がりが感じられるイニョン(縁)を描いているが、運命の人と結ばれないのもまた一つの宿命として表現されている。こういうことは、誰しもの胸に想起させる思い出や人物がいるんじゃないだろうか。彼女たちと同じように、ソーシャルメディアの誕生によって奇跡の(でも今は当たり前の)再会を果たした人たちも少なくないと思う。
そんな運命の相手を「去っていく人」と言い切ることで、自身の揺れ動き締め付けられるような気持ちになんとかケリを付けるシーンには、つよい共感を覚える。

印象的だった最後の夜の様子。運命の相手を夫に会わせるという彼女の行動は、夫にとって辛いものだろうが、でも同時に夫に対する最大限の誠意でもあった。夫もそれを理解するからこそ、あの苦しいバーでの3ショットの時間を、運命の二人が見つめ合いながら異国語で言葉を交わし続ける様子を、ぐっと耐え抜いた。

後から知ったのだけど、監督のセリーヌ・ソンの人生が、主人公ノラのそれと酷似していた。アーティストの両親を持ち、12歳でカナダに移住して、アーティストレジデンシーで伴侶に出会うところまで完璧に同じ。そんな彼女自身に、本作のヘソンのようなイニョンな相手がいたのか。いなければこの作品は書けなかっただろう。

この映画のルックもとても好きだ。これまで多くの映画で見たニューヨークが、全く違って見える。アングルの取り方や、大胆なクローズアップ、そして喜怒哀楽のエモーションが現れる場面では逆に客観的なショットを使う。美しい色合いも含めて、ビンビンにセンスを感じるし、めっちゃA24っぽいなーとも思う。

鏡の使い方も印象的で、上手かった。最後まで見ると、オープニングのショットも実は鏡を使ったショットだった(実際には使ってないけど、理屈上は)ということが分かって、変なところでおおーと思ってしまった。

あとは、石、というか石像、も幼き日に遊んだ石の彫刻があり、24年ぶりの再会の場面にもバックには石碑みたいなものが映されていて、多分"変わらない、ようでいて少しずつ変わっていくもの"みたいな時の経過を暗示していたのかなという気がした。

異言語の効果も際立っており、ノラの夫が少し韓国語を理解することが、ノラとヘソンの濃密な会話の中で彼がどれだけ理解しているか観客には不明となり、興味深い緊張感を生み出している。伝わったのか伝わらなかったのか、というのもコミュニケーションの宿命だ。


ただ、思っていた以上にウェットだったのはちょっと面食らった。いや、ストーリーテリングはむしろドライとも言えるが、登場人物、特に男性キャラクター二人の感情表現が非常に繊細でナイーブだった。ノラの夫がベッドで妻に対してクヨクヨ言って甘えてるのも、ヘソンが再会以降ずっとウジウジモジモジしてるのも、もうちょっとシャキッとできんもんかね。「去っていく人」というとても良いセリフがあるのに、その前のウジウジでちょっと心離れてしまったかも。

ウジウジといえば、ヘソンがニューヨークにきて、1人でホテルのロビーの隅っこで小さくなってイジイジマフィン的な何かもむしゃむしゃ食ってるのとかは、1人海外あるあるで笑った。共感。

あとなんだろう、ショットの美しさと表裏一体かもしれないけど、世界が美しすぎるというか。嫌な人も、嫌な出来事も、ひとつもない。ヘソンの学生時代の友人は、12年後も24年後も、誰一人欠けること無く同じように飲み明かしてくれる。人生ってそうだっけ?ちょっとこの辺がキレイでつるつるしていて、イージーに見えるというか、世界にはこの3人しかいないかのように見えてしまったんだよね。
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