ささきたかひろ

ラストナイト・イン・ソーホーのささきたかひろのレビュー・感想・評価

3.9
正直、脚本や設定にツッコミたい部分はあるけれども、私は人間は直線的な時間の中に存在している限り現実の視覚として「映画的」体験をする事は不可能だと思っているので(夢、幻想、空想なら可能だけどそれは脳が直接アウトプットしている視覚なので除外します。)そのことを理解しつつ挑んでいる映像作家の作品は無条件で支持してしまう。まして本作のプロットの柱となる「幻視・幻影」なぞ他者と共有することなんて不可能なので、本作を見終えた後にエロイーズの誠に厄介な「幻視・幻影」世界を体感できた気分になるという事はエドガー・ライトの映像的勝利と言って良いだろう。

映像のトリックに酔いつつ「ここはどう撮ってるんだろう?クロマキー合成なのかな?ボディダブルを使ってるのかな?」なんて楽しみつつもストーリーに置いていかれることのないこの塩梅は絶妙で、それらの映像的体験は十二分に冒頭に記述した脚本や設定の粗を補うものだった。

本編を見るより先にダンスフロアのシーンのトリックを知ってしまうという勇足だったが杞憂に終わりました。

中盤、エロイーズが夢の入れ子にハマり覚醒を繰り返す場面は、今敏の「パーフェクト・ブルー」を連想させました。

本作で直線的な時間の中では体感出来ない「映画的映像体験」を体験させてくれたエドガー・ライト。次作はどんな映像魔法を駆使するのか、楽しみです。
ささきたかひろ

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