映画ネズミ

トップガン マーヴェリックの映画ネズミのレビュー・感想・評価

5.0
向いている人:
①今、何かに悩んでいる人
②トム・クルーズの映画を見たことがない人

 私・映画ネズミにとっての今年の大本命『トップガン マーヴェリック』観てきました。
 ネット上にも大絶賛評が並んでいて、委縮されるかもしれません。
 「前作観た方が良いよ!」と言われて、「予習必要なのか…」となるかもしれません。

 心配いりません!
 前作の予習も必要ありません!
 ここから先の感想も読んでいただかなくていいです!笑
 そんなことより今すぐ、できるだけ音響と映像設備の良い劇場に足を運んで、本作を見てください! 絶対に後悔させません!
 今現在劇場にかかっている映画の中では、最も優先して行くべき作品です!


 かつてトップパイロットだったマーヴェリックは、あるミッションに参加する飛行士たちを鍛えるため、「トップガン」に呼び戻され、若い飛行士たちと訓練を積んでいく…という物語です。

 第1作『トップガン』公開から36年。まさかの続編発表に驚き、その後コロナ禍による延期に次ぐ延期で焦らされに焦らされた末の、やっとの劇場公開でした。

 第1作『トップガン』は、「何でも気合で乗り切れるぜ!」系の、体育会系のイケイケの時代のトム・クルーズの大出世作であり、ファッションアイコンとしても絶大な影響を与えた作品ですが、平成生まれの僕には今ひとつ実感のない作品でした。

 僕とトム・クルーズの出会いは2003年の『ラスト・サムライ』でした。その後何作も見ていましたが、しばらくは「ハリウッドスターの1人」くらいの認識でした。その後、ケイティ・ホームズとの結婚周りのゴシップなどで世間を騒がせている姿も見てきました。
 ところが2011年『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を見てから、映画人としてのトム・クルーズへの信頼とリスペクトが毎作ごとに増していきました。

 彼は、常に「自分が観客にどう見えているか」についてとても意識的で、その時のパブリックイメージすら作品に取り込んで、できるだけ多くの層に響く作品を作ろう、映画でしかできない作品を作ろうとしてきました。
 だからこそ、アクションシーンは自分自身で命がけのスタントに臨むし、特に大事な作品にはプロデューサーとしてコミットし、そうでなくても才能ある監督(J・J・エイブラムス、クリストファー・マッカリーなど)を起用したりと、新たな才能の発掘にも余念がありません。
 そんな、映画作りに命をかけ、公私ともに「ハリウッドスター」を体現するトム・クルーズのすべてが、本作にありました。

 本作が素晴らしい点は、大きく分けて3つあります。

 まずは、「1本の作品として見られる」こと。
 最近はMCU作品を筆頭に、「ある作品を楽しむためには別の作品を予習する」ことが必須になりつつあります。
 本作は、前の作品があるわけですし、前作を見ているに越したことはないのですが、前作を見ていない人にも、前作のエッセンスがきちんと伝わる物語になっていました。
 登場するキャラクターも、トム・クルーズは勿論、若い飛行士たちも各々キャラが立っていて、とても魅力的でした。中心となるルースターはもちろんのこと、ライバルポジのハングマンの、イキっているけど良い奴感や、紅一点フェニックスの凛々しさ、ナヨッとしたボブのギリギリの場面で見せる男気など、それぞれに見せ場がありました。
 マーヴェリックとバー経営者ペニーのロマンスも、ちょうどいい塩梅。しかも、きちんと本筋であるマーヴェリックの成長のドラマに絡んでいました。
 俳優たちを実際に戦闘機に乗せて撮影したという空中戦シーンは圧巻の一言。僕はアイマックスとドルビーアトモスで観ましたが、とにかく音響も素晴らしければ、自分も戦闘機に乗っているかのような臨場感ある映像は、「空中戦映画の到達点」と言っていいと思いました。
 そして、訓練と闘いの日々の中で、マーヴェリックが若い飛行士たちと触れ合う中で成長するドラマ。人がガッツを失ったときに何ができるのか。「考えるな、行動しろ」。彼自身の言葉が彼を救う、王道ですが心を打つ展開には、涙が溢れます。

 2つ目は、「続編としても素晴らしい」ことです。
 続編といえば、前作を見た人へのファンサービスは当然入れてくるのですが、やり過ぎるとお粗末な同窓会になりかねません。
 ですが本作は、前作の構成を借りつつも、前作への直接的な言及は一部のシーンとあるキャラクターに集約させています。特に、そのキャラクターとマーヴェリックとの会話シーン。共に修羅場を乗り越えて時間を積み重ねてきたからこそ、少ない言葉でも理解し合える関係性にとても憧れます。

 3つ目は、「ドキュメンタリーとして素晴らしい」ことです。
 最近のトム・クルーズ映画はほぼすべて「トム・クルーズの自分に関するドキュメンタリー」だと思って見ています。
 毎作毎作、新しいことに取り組んでいるトム・クルーズ。彼は常にアメリカのアクション映画の最前線に立ち、革新を続けてきました。
 考察系の映画が増え、また会話シーンでドラマを紡いでアクションはアクションだけ、という映画も多く、また配信で公開する映画も増えた中、トム・クルーズ主演の映画は、常にアクションがストーリーを前に進めていくものばかりですし、映画館で見るべき作品に仕上がっています。「考えるな、行動しろ」を自ら体現しているのです。

 作中、「終わりは見えている。君みたいな者は絶滅するんだ」と上官に言われたマーヴェリックが、「そうかもしれません。でも今日じゃない」と返すシーン。
 これは、CGが当たり前の現代、「俳優自身が命を張る映画なんてもう古いし、後に続く者なんていない」ことに対し、「でも自分はこのやり方を続ける」という、トム・クルーズの生涯現役宣言でもあります。
 また、「映画を劇場で見る文化」が揺らいでいる昨今、「でも自分が出る限り、映画館で見るべき映画に出続ける」という宣言でもありました。
 それをただ台詞で言うだけでなく、前述したように、映画館でこそ見るべき作品に仕上げてくれています。

 トム・クルーズは『トップガン』の続編製作権を買い取り、ずっと温めてきました。映像化するにふさわしいタイミングを待っていました。
 コロナ禍など、様々な問題で映画業界自体も苦しみ、映画館から人が遠のいている昨今、「映画館で映画を見ることの素晴らしさ」を、映画界きっての現役スターである彼自身が思い出させてくれました。
 そして、何かに悩み、苦しむ人に、温かくも力強いメッセージを届けてくれました。

 トム・クルーズも今年60歳。信じられないバイタリティーですが、いつか終わりが来ます。本人が一番そのことを分かっているはず。だからこそ、自分ができるうちに自分の全てを出し尽くしたい。自分の思いを映像に焼き付けたい。本作『トップガン マーヴェリック』からは、そんな彼の必死の思いが伝わってきました。

 キレキレの航空アクションが見られるだけでなく、とても優しいドラマを味わえる131分に号泣しました。人生ベスト級の映画です。
 ありがとう、トム。
 来年『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』でまた会おう!
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