向いている人:
①人との距離感に悩んでいる人
②学校や仕事で悩んでいる人
僕が運営に携わらせて頂いている「チネマット」主催のオンライン試写会で鑑賞しました。
高校で美術部に所属する主人公・朔子(さくこ)が、海辺でスケッチをしている最中に海に転落してしまい、その姿を同じ美術部の西原(さいばら)が描いた絵がコンクールで賞を取り、さらに朔子は西原から次回作のモデルになってほしいと頼まれる、というお話です。
主人公の朔子は、何となく周りと上手く付き合っているのですが、次第に、彼女がいかに自分を押し殺しているか、納得できる作品を生み出せない苦しみを味わっているかが明らかになってきます。
朔子を演じた上原実矩(うえはら みく)さん。表情がとても素晴らしいです! 朔子の頑なな真面目さと時折見せる感情の揺れを見事に表現されていました。
これに対し、西原はいわば「孤高の天才」。自分の見た、感じた光景をしっかり作品に反映でき、周囲からも評価される才能の持ち主です。
演じる若杉凩(わかすぎ こがらし)さんの、まるで世界全体を俯瞰しているかのような表情、ミステリアスな佇まいも絶品です。
朔子はそんな西原の「作品」として利用されることに反発を覚え、2人の間に対立が生まれていきます。
いわば『アマデウス』のような「凡人VS天才」という分かりやすい構図、と言ってしまえば単純なのですが、この映画はそうではありません。
僕は、いわば「生みの苦しみ」を描いた作品だと思いました。
誰だって好きなことがある。好きなことをして、評価してもらいたい。でも、上には上がいるし、それどころか、自分の思い描くことを作品に反映できないし、そのうち何を作ったら良いかも分からなくなる。
憶測の域を出ませんが、若き表現者としての浅雄監督の思いが強く表れていると思います。
映画が誕生して100年以上。既に「映画黄金期」は終わったと言われ、ごく少数の「天才」が名作を生み出し続け、物語も技法も「何かの真似事」に見えてしまいかねない時代。ともすると「過去の名作」に耽溺すればいいとすら言えるかもしれません。
しかし、その中でも、人はどこかで「自分の思い描いたことを形にしたい」という願いを抱き続けています。それは「作品」かもしれないし、「家族」かもしれない。でも形にするには苦しみを伴います。本作は、その人が自然に抱く願い、そして苦しみすら静かに肯定してあげる作品になっていました。
キモになるのは、終盤の西原と、朔子の父(川瀬陽太さん)の台詞で明かされる「価値観の転換」です。
高みを目指しても、常に付きまとう「苦しみ」。それと付き合いながら、人と出会って、影響しあって、自分が次第に変わっていく。
当たり前のことかもしれませんが、それに気づかせてくれる作品でした。