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海辺のリアのundoのレビュー・感想・評価

海辺のリア(2017年製作の映画)
3.9
海辺のコーディリア。

小林政広監督。
重度の認知症を患う、かつての大俳優とその家族を巡る、老いと裏切りと悲哀と救いの物語。

タイトルのリアとはシェイクスピアの『リア王』のこと。
娘に追い出される王の悲哀、そして末娘との共闘や衣装に至るまで、全編に渡って明白なオマージュが表現されている。

かつての大スターという役どころを仲代達矢が演じる。日本映画史の生き証人であり、この年代では数少ない現役俳優でもある。
本作には黒澤映画のオマージュが多く登場するが、その黒澤映画の常連であり、他ならぬ『乱』(リア王がベース)の主演でもある彼こそがふさわしいだろう。
本作でも圧倒的な量のセリフと豊かな表現力に改めて驚かされる。

他の役者陣も何気に豪華。
主演級の黒木華を久しぶりに見たけど、この人はやっぱり感情の乗せ方が上手くて安心して見てられる。
阿部寛は良くも悪くも阿部寛。情けない役柄が本当に板についている。
小林薫は一見ムダ使いだが、妙に印象に残るのはなぜだろう。

阿部寛の長台詞のシーンなど、やりすぎに思える演出もあるけれど、基本的には、地味なのに終始楽しみながら観ることができた。

人の醜さや痛々しさを描きながらも、根底にあるテーマはアイデンティティの喪失だと感じた。
記憶を失った人間のアイデンティティはどこにあるのか。
親から存在を認められない子供は?
子供と一緒に暮らせない母親は?
師匠を裏切った弟子は?
彼らの寄る辺はどこにあるのか。
寄る辺がなくとも救いはあるのだろうか。
ラストのストップモーションの意図するところを知りたい。
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