undo

光のundoのレビュー・感想・評価

(2017年製作の映画)
4.4
穏やかな喪失とその先。

河瀬直美監督。
視力を失いつつある天才カメラマンと、父親の思い出を失いつつある女性。
互いに惹かれていく2人の姿を通して描かれる、喪失と再生の物語。

リバイバル上映の『牯嶺街少年殺人事件』を除けば、今年の上半期ベスト。ひさびさに映画館でカタルシスを覚えました。

2人のラブストーリーという体をなしてはいるが、それ以上に深く荘厳なテーマをもつ、とても繊細かつ丁寧に作り込まれた質の高い芸術作品。決して褒めすぎではないと思う。

視覚障害者の生活を扱っていて、映画のガイド音声が作られていく過程や、タイプすると音声が出るキーボードなど、普段馴染みの薄い世界の様子も興味深い。
また、視覚障害者への接し方という、デリケートな問題も扱っており、サポートする側とされる側の、互いの甘えについても切り込んでいるところも良かった。
サポートされる側は、心のどこかで、サポートされて当たり前という甘えがあるのではないか。
そしてサポートする側は、同じく心のどこかで、サポートしてもらえるだけでありがたいのだから、行き届かないところがあっても我慢してほしいという甘えがあるのではないだろうか。
本当に難しい問題だけど、声を出していくことに意味があると思う。

映像面でも、光の使い方が素晴らしく、前半、ヒロイン美佐子(水崎綾女)と彼女の母親が縁側で佇むシーンが特に素晴らしい。
自然の音と光に包まれる中、美佐子が笑顔で優しく母親に語りかけるシーンは今年のベストシーンかもしれない。ここだけでも映画館に来た甲斐があったと思わせる出来。
水崎綾女は娯楽作によく出演しているみたいだけど、本作の彼女はとても良かった。

そして、本作の核心ともいえる部分について。
主役の2人が抱える、緩やかに喪いつつある大切なものへの愛情、執着、焦燥、葛藤、諦観、寂寥といった繊細な感情が丁寧に描かれていく。
さらにはそれを乗り越えていく姿さえも。クライマックス、この作品で最も動きのあるシーンは、女性監督ならではの感性が感じられた。
でもあれはどちらかというと母性だよねえ。


一番大切なものを喪った先には何があるのか。
ガイド音声の姿を借りて、作中で幾度も問われたその問い。
自らハードルを上げに上げて、さらにそれを上回ってきたラストの脚本に答えがあるのだろう。
ただ、そこにある。
undo

undo