undo

母の残像のundoのレビュー・感想・評価

母の残像(2015年製作の映画)
4.0
離れて、寄り添い、また離れて。

北欧の新鋭監督、ヨアヒム・トリアーの作品。
戦争写真家であった、とある女性の死を巡り、彼女の家族が抱える喪失感と、その折り合いの付け方を描いたホームドラマ。静かに、優しく。

一回限りの特別上映。
映画館の企画、金曜夜の特別上映の第5弾(不定期開催)。良い作品が多いです。この機会に感謝。

タイミング的に『たかが世界の終わり』とどうしても比較してしまう。共通キーワードは家族の不在。
あちらは、家族の不在に対して、残された家族が、これまでどう折り合いをつけていたかという、ある種の「答え合わせ」的な面があったように思える。

それに対して、本作は、妻の死に対する夫、母の死に直面した息子たちという、それなりに時間が経過してもなお、未だ折り合いをつけきれず、答えを出せない男たちの姿が描かれる。
さらには、死んでしまった本人(イザベル・ユペール)の回想も交えて、彼女が感じていた家族観が交錯しながら描かれるので、よりテーマに厚みと深みを感じる。

上記の回想に加えて、デヴィン・ドルイド演じるナイーヴな次男の妄想世界が映像で表現されたりもするので、序盤の方は観ていてやや混乱することも。しかし、基本的にとても親切丁寧な撮り方なので、次第に慣れてくる。

役者陣の素晴らしさ。
ベテラン、若手の実力派で固めていて、皆良かった。ソツなくエリート街道を歩んできたのに、我が子の誕生から逃避しつつある長男を、やはりソツなく演じたジェシー・アイゼンバーグも良かったけど、なんといっても素晴らしかったのは、イザベル・ユペールとデヴィン・ドルイド。ある意味、主役の2人。

イザベル・ユペールは、その深みのある顔立ちから、動く姿よりも静止画で観た時の表情の強さが印象的なので、彼女が映った写真も多く登場する本作はハマリ役とも言えそう。終盤の長回しで見せる表情は屈指の出来。

デヴィン・ドルイドは初めて観たけれど、思春期のナイーヴな非モテ高校生を見事に演じ切った。
繊細で、内にこもる性格なのに、若さゆえにあふれる衝動を抑えきれずに変な行動力を見せる。
中二病全開の作文、カースト違いの女子への無謀なアタック、それなりに経験する甘酸っぱい思い出。
実はたくさんいそうなこういう男の子、その、いるいる感をパーフェクトに再現してみせた彼の演技に脱帽。自分でもヘンだと思ってる。でも、誰かに知ってほしいんだ。

家族とはなにか、側にいることの意味は、それを喪うということの意味は?
そんな、誰もがいつかは経験する普遍的なテーマを丁寧に描ききった傑作。
また注目の監督が増えました。

そばにいる時の孤独感と、離れた時の愛おしさと。
undo

undo