Solidarity

それでも、愛してるのSolidarityのネタバレレビュー・内容・結末

それでも、愛してる(2009年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

R.I.P. ANTON YELCHIN

アントン・イェルチンは27歳という若さで2016年6月19日に不慮の事故で亡くなりました。

彼の魅力は大きな瞳にあります。彼の瞳はいつも私に訴えかけて来ます。慈愛に満ちた瞳はどんな役を演じても隠しようがありません。彼の本質は天使そのものだと思います。その特別な存在は亡くなった後も色褪せることなく残された映像の中で生き続けています。ANTONファンにとってはただそれだけが唯一の救いです。

『それでも、愛してる』では主役のメル・ギブソンの名脇役として存在感を遺憾なく発揮しています。この映画の原題は「THE BEAVER」です。メル・ギブソン演ずるウォルターは父親から譲り受けた玩具会社を経営し4人家族に恵まれて幸せに暮らしていました。ところがうつ病を発症して会社も家庭もうまく行かなくなりました。特にアントン演ずる息子のポーターには毛嫌いされました。そしてそれはハンドパペットの「THE BEAVER」の出現によって更に強まりました。ウォルターは左腕にビバーのパペットをいつも身に付け子どもがお人形とおしゃべりするようにビバーと会話しビバーの虜になることで嘗てのウォルターを消し去ることに成功します。ウォルターは会社のCEOを辞任しパペットのビバーを会社のCEOにしました。これはウォルターが二重人格になったということでしょう。メル・ギブソンの一人二役の演技は見事です。ビバーから発せられる言葉は力強く自信に満ち溢れていて会社の業績も飛躍的に伸びポーターを除いて家族にも受け入れられました。しかしそれは長続きしませんでした。何故なら家族はビバーではなく嘗てのウォルターを愛していたからです。社会的にも成功したビバーはウォルターを家族に返さないとウォルターに圧力を掛けますが家族を失いたくない気持ちが勝ったウォルターはある行動を取ることにしました。それはビバーの棺桶を工作し左腕を切断することでした。ジョディ・フォスター演ずるウォルターの妻メレディスはビバーてはなくウォルター自身から電話がかかってきたことから異変を感じポーターにウォルターの様子を見てくるように頼みます。ポーターが見たのは片腕のない血まみれのウォルターでした。発見が早かったおかげで、一命を取り止めることができました。このウォルターの取った行動で家族の絆を取り戻すことが出来ました。その象徴的なシーンはアントン演ずるポーターとウォルターのハグです。こういうシーンこそアントンの独壇場で、本当に絵になります。

ポーターがハグに至る過程はあるスピーチから始まります。それはポーターの恋人に代筆を頼まれた卒業式での総代のスピーチでした。

「卒業生諸君 未来の詩人や未来のアインシュタイン 私はあなたたちに警告します。親も先生も医者も私たちをだましている。彼らのウソは同じこの6文字です。『全部 解決する』…突然 不意を突くように不幸が襲ってきたら?襲ってきたら…何て暗いスピーチだと皆さん思ってるでしょうね。同感ですが書いたのは別人です。私はこのウソが本当になるのを待ち続け-今回お金を払いこの真実を教わった。私の問題は何も解決していない。失われたものは戻らないのが真実だから。私が失った最愛の人  今日も来てほしかった。兄は戻ってきません。私はどうすれば?あのウソを信じる以外に方法はありますか?私は信じています。ここにいる人々の中に-あなたを助け起こし許してくれる人がいると-あなたに耐え導いてくれて-愛してくれる人が『全部解決する』はウソだけど これは本当です。『皆 独りじゃない』」このスピーチはポーターに向けられたものでした。

ポーターは父が入院している病室を初めて訪れます。
(ウォルター)
来ると思わなかった
(ポーター)
僕も思ってなかった
死ななくてよかった
(ウ)
一部を失ったが
(ポ)
そうだね。小さいころはパパのようになりたいと思ってた。大きくなると絶対なりたくないと。
(ウ)
今は?

ポーターはウォルターに抱きついてパパと呼びかけます。二人がきつく抱き合って涙を流すその姿をカメラはズームアウトします。そのシーンの先には病室に入るのを止めたメレディスの姿がありました。

大きな瞳と整った眉毛で演技する彼のスタイルは大人になっても何ら変わることはありませんでした。少しかすれ気味の声も子役時代から引き継がれていてこれが天賦の才というものなのでしょう。つまり彼は子役時代からすでに名優だったのです。

これまでの数々の名演に惜しみない拍手を心から送ります。

安らかに  アントン・イェルチン
Solidarity

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