Solidarity

ディープエンド・オブ・オーシャンのSolidarityのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

完ぺきな家族

16歳のビンセントが皮肉っぽく言った「“完ぺきな家族”として」の台詞はパット家の抱える問題を浮き彫りにしている。映画「ディープエンド・オブ・オーシャン」を読み解く鍵はアバンタイトルにある。陽気で幸せそうなこのシーンで撮られた1枚の写真がすべてを物語っている。被写体は母親と3人の子ども達。はち切れそうな笑顔の中に独り不満を隠さない長男ビンセント7歳の顔があった。彼はママの同窓会の開催地シカゴではなくパパと一緒にパパの店に行きたかったのだ。その願いが叶っていたら次男3歳のベンの誘拐事件は起きなかった。

あの事件から9年後ベンがサムとして戻ってきた。ママのベスはサムを抱きしめて言う。「あなたを抱きしめたいと何年も思っていたのよ。あなたも寂しかったでしょ。」それに対してサムはこう答えた。

「パパやママが抱きしめてくれた。」

サムが言うママ「セシル」はベンが生まれた年に出産したが赤ん坊は合併症で亡くなり、それがもとで彼女は神経衰弱で3年間入院していたが退院してあの同窓会に出席しベンを連れ去り姿を消した。その後、ミネアポリスでジョージと結婚し、彼はベンを養子にしパット一家の住む街へ引っ越して来た。サムはこのパパと5年前に自殺したママを心から愛していたのだ。

パット一家に馴染めないサムに同情していたベスは「どうしたいの?」と彼に問わざるを得なかった。「元に戻りたいけど、あなたもパットも傷つけたくない。」

だからサムはこっそり夜中に抜け出してジョージの家の自分のベッドで寝ることにしたが、長くは続かなかった。そのことが発覚してパットに叱責されたのだ。サムは堪えきれずに本心をぶちまけた。「もうウンザリなんだよ。なぜ自分の家で暮らしちゃダメなの?3ヵ月もこの家で努力したんだ。ママに悪意はなかった。病気だったんだ。」

ジョージは息子の願いを叶えてあげたかったが彼には為す術もなかった。

この問題を解決できるのは二人しかいない。それはパットとベスだ。

二人の考えは正反対だった。 

パットの考えはこうだ。
・幸せになるチャンスは逃さない。
・君も幸せになる努力をするべきだ。
・母親としてサムを導いてやれ。
・サムは乗りきれる。問題は君だ。
・子を失うのは一度で十分だろ?
・あの子を返すことはできない。

ベスの考えはこうだった。
・サムは私たちを覚えていない。
・無理に引き留めているだけ。
・パットには理想の人生でもこれではまるで、私たちが誘拐犯だ。
・あの子を失ったのは私のせい。
・一瞬の不注意で高い代償を払った。
・私もパットもビンセントも苦しんだ。でもサムまで苦しめる必要がある?
・過去のことはもういい。
・大事なことはこれからのこと。
・あの子をジョージに返す。
・お願い!私につらい役目をさせて。

どちらに愛を感じるか。一目瞭然。愛は他を認めること、相手を信じることだから、耐えることを要求される。

サムをジョージに返したベスは写真を整理していてアバンタイトルに出ていたあの写真を見つけた。注目したのはサムではなくビンセントだった。この時初めて長男を蔑ろにしていたことに気付いた。“長男だから”は古今東西禁句なのだ。

事故を起こして収監されたビンセントに面会したベスは寂しい思いをさせて来たことをビンセントに詫びた。ビンセントの目には光るものがあった。二人の両手は優しく交互に重ねられ彼は溢れる涙を流した。

面会に来たのはベスだけではなかった。あることを確かめにサムがやって来たのだ。ここで交わされる台詞はアバンタイトルのシーンが如何に大切かを思い知らされる。

【交わされた台詞】

(サム)どう?元気にしてる?
(ビンセント)まあね。5年から10年の刑だけど。冗談だよ。
(サ)酔ってたの?
(ビ)僕のせいじゃないよ。酔ってたけどね。なぜ来た?
(サ)なぜって・・・友達になれるかと思って。
(ビ)友達?なれるわけないだろ。家に戻ったのに窓からコソコソ出たりベンなのかサムなのかわからないし。正体不明だよ。
(サ)僕のせいじゃ・・・
(ビ)“僕のせいじゃない”?誰かのせいにしたいのか。僕には僕の人生がある。不愉快なんだよ。用があるなら言え。
(サ)君は僕の兄さんだ。会いたかったよ。時々、心のどこかでぼんやり・・・君は兄さんだよ。
(ビ)もう帰れ。サム。君はいいやつだよ。ここを出たら会いに行く。でも今は帰ってくれ。
(サ)待って!たった、ひとつー覚えてることが。
(ビ)どんな?
(サ)ベスが古いチェストを見せてくれたんだ。古い赤ん坊の服が一杯つまってた。
(ビ)それで?
(サ)あの香り・・・隠れんぼで中に入った気がする。そうだった?(ビ)ふたが閉まっちゃったんだ。(サ)やっぱり。そうだと思った。君が開けてくれた。
(ビ)君は中にいた。怖がりもしないで。
(サ)そう、やっぱりね。君が来てくれるから安心だったんだ。

サムはパパのパットやママのベスのことは覚えていなかったけど、兄のビンセントのことは覚えていた。これが決め手となりサムは夜中に重いトランクを持ってパットの家に戻って来た。このラストシーンは実にいい。台詞もジーンと来る。

【ジーンと来る台詞】

(ビンセント)何してるんだ?
(サム)べつに。プレーする?
(ビ)もう真夜中だし寒いんだぞ。(サ)だから?
(ビ)ジョージに言って来たのか?(サ)うん。下りてきなよ。
(ビ)また僕を逮捕させる気か?“治安妨害罪”で。
(サ)静かにプレーすればいいさ。おいでったら。
(ビ)よし。
(サ)早くやろうよ。
(ビ)待てよ。よし、シュートしてみろ。
(サ)どうした。居眠りしてるのか?どっち?どう抜けるつもり?(ビ)おい、ファールだぞ。
(サ)認めろよ。負けたんだぞ。(ビ)わざとさ。今夜は終わりだ。また明日来いよ。
(サ)もう家には戻らないんだ。(ビ)つまり?サム、何だよ。
(サ)ジョージも知ってる。よく話し合ったんだ。だから夜中に来た。
(ビ)なんで?
(サ)大騒ぎしてほしくなかった。君やベスやーパットにも。
(ビ)サム。ずっとうちに?
(サ)わからない。そうなればいいと思ってるけど。
(ビ)重いな。中身はコンクリートか?
(ビ)僕が悪いんだ。あの時、君の手を離した。
(サ)ほんとに重い。パパが・・・ジョージが運んだんだ。
(ビ)聞こえた?
(サ)うん。だから?
(ビ)君の手を離した。“消えちゃえ!”って言ったんだよ。
(サ)平気さ。みんなにも“消えろ”って言われる。シュート合戦で運ぶやつを決めようよ。負けたら運ぶ。どうした。僕に降参かい?やろう。

(ベン)ご近所が起きるわ。
(パット)ほっておけ。ベス。僕は・・・

憑き物が落ちたようなビンセントの顔とベスに許しを請うパットの顔。ベスはパットの口に人差し指を乗せ「寝ましょう」と言ってキスをする。シュート合戦の結果は分からず終いだが“完ぺきな家族”に近づく予感を残して暗転となる。

この映画の影の主役はビンセントだと思う。

脚本の3本の矢💘💘💘

心に沁みる着想
見続けたい展開
印象に残る落ち

この映画の脚本は完璧です。
Solidarity

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