Solidarity

きっと、うまくいくのSolidarityのネタバレレビュー・内容・結末

きっと、うまくいく(2009年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「優秀な者に権威はいらない。何故なら優秀だから」

このフレーズは映画「きっと、うまくいく」の主人公ランチョーにぴったりのフレーズだとは思いませんか?ここで言う優秀とは教科書の丸暗記とは違います。目の前の問題解決に即座に対応し解決する能力のことです。機械工学好きで訳ありのランチョーは超難関の工科大学に入学しますが、そこはランチョー1人を除いて学生の誰もが成績の順番に一喜一憂するストレスの塊のような場所でした。その原因は巣を持たないカッコウを是とする学長の頑な一番主義の思想にありました。学生の中には親の期待と学長の重圧に耐えかねて死を選ぶ者もいました。ランチョーはその間違いを正すため異端児となって学長や教授や丸暗記で首席を狙う学生のチャトゥルと対峙します。センスのある切り口でその間違いを論破していくランチョーの痛快な言動は軋轢を生みながらも次第に受け入れられ周りの人々の人生を変えて行きました。

一人目は学長です。嵐の日にその奇跡は起きました。この映画で一番泣けるシーンです。危機的な状況において学長の孫の誕生を学生を総動員して無事やってのける発明家ランチョーの素早い行動は本当にカッコいいです。学長は孫が生まれたら息子と同じようにエンジニアにすると決めていました。でもこの直前に息子の死が事故ではなく自殺だったことを知りました。彼はエンジニアではなく小説家を志望していたのでした。頻死の状態から生き返った孫をランチョーから引き渡された学長は孫を抱きかかえて“元気よく蹴ってサッカー選手か?お前は好きなものになれ”と言いました。それを聞いて安心したランチョーはその場から立ち去ろうとします。このちょっと前に不正行為で学長から退学処分を言い渡されていたからです。学長はランチョーを引き留めて言いました。「初日に質問したな。宇宙での鉛筆について。お前はペンでなくて鉛筆でいいんじゃないかと言った。鉛筆は先がぼろぼろになるんだ。無重力だと辺りに漂い、目や機械に入る。お前は間違ってた。間違いもあるんだ。分かったか!」ランチョーは素直に間違いを認めました。「このペンは大発明なんだ。私の恩師は言った。“君のような優秀な学生がいたら、このペンをやりなさい”」と言って学長はランチョーのTシャツの丸首にペンを差しました。学長がランチョーの肩に感謝の手を添えた時ランチョーの退学処分は取り消されました。

二人目はランチョーと同室のファルハーンです。彼は5年前に書いた手紙を出せずにいました。それはアンドレ・イステバーン氏宛ての手紙でした。彼の下で写真を学びたかったのですが父親を恐れて出せなかったのです。ランチョーは彼に内緒でその手紙を投函しました。ファルハーンは面接に行く準備をしていましたが、イステバーン氏の手紙を渡され驚愕しました。何故ならその手紙には「君の写真が気に入った。撮影助手にしたい。1年間熱帯雨林での撮影を手伝ってくれ!」と書かれていたからです。息子をエンジニアにしたかった父親の説得は困難を極めましたが、ランチョーの言葉に絆された父親は息子に「自分の人生を生きろ!」と動物写真家に進む道を認めてくれました。ランチョーの言葉はこうでした。「ランチョーが僕のサイフに両親の写真を入れさせた。メゲた時にはこれを見ろって。両親が遺体を見る時のことを考えろって。父さんには納得してもらいたい。自殺で脅すのはイヤだ。写真家になれば稼ぎは少ないだろう。でも僕は幸せに暮らせる。父さんたちの面倒も見るよ。ずっといい子だった。一度だけわがままを許してくれ。お願いだ。」

三人目はランチョーと同室のラージューです。彼は車椅子に乗って会社面接に臨みました。面接官は「何か事故でも?」と訊ねました。彼は学長から退学だと言われたので学長室から飛び降り自殺を図ったと伝えました。驚きを隠せない面接官は気を取り直して「君の成績は一貫して悪いね。理由は?」と問いました。ラージューはランチョーから“おまえは臆病だ。お守り指輪だらけ。指の数より多い。将来を心配してたら生きていけない。勉強にも集中できん!”と言われていました。ラージューは面接官にこう答えました。「恐怖心です。幼い時は優等生で両親から過剰な期待が恐ろしくなった。1番にならないと競争に勝てない。萎縮したんです。お守りの指輪を山ほどつけ神頼みばかりしてお慈悲を願ってました。今回16カ所骨折してやっとわかりました。今は願い事ではなく人生に感謝して祈りを。自殺未遂が問題なら構いません。僕は何とか生きていきますから。」この答えに面接官は「正直でいいが。わが社にはふさわしくないね。だが、君がその正直さを仕事では抑えられると約束できるのなら考慮してみてもいい。」ラージューは笑みを浮かべながら「痛い思いをして学んだんです。やっと悟ったのでそれはできません。」と言って履歴書のケースを閉じ車椅子の向きを変えて去ろうとした時に「待ちなさい!」の声。面接官は続けてこう言いました。「面接を続けて25年になるが、誰もがこちらに迎合してくる。だが、君は。」“はい?”「給料の希望額は?」

ランチョーは二人の晴れやかな“ゴーカン”を遠くから見て柱の影に隠れて涙しました。

四人目は一番主義の信奉者チャトゥルです。ヒンディー語の苦手なウガンダ生まれのチャトゥルが教師の日の代表に選ばれ、彼は学長を喜ばせるためにヒンディー語代筆を図書館員に頼み言葉の意味を説明しようとする彼に「意味なんかいい。丸暗記するから。」と言ってプリントアウトさせます。ランチョーはチャトゥルと図書館員をその場から離れるように画策し、プリントアウトした原稿を破り、2語を別の言葉に変換した原稿をチャトゥルに渡します。そのスピーチに学長と教育大臣は激怒しましたが、学生たちには大受けしました。学長にどやされたチャトゥルは原稿を改ざんしたランチョーを恨み「丸暗記はダメ!科学を楽しめ」と諭すランチョーに「科学は遊びじゃない。いつか私はこのやり方で成功してやる。その時笑うのは私だ!」これに対し「成功を追うのは間違いだ。優秀なら成功は付いてくる。」とランチョーは答えましたが、チャトゥルは納得せず、10年後どっちが勝つか勝負しようと10年後の再会を一方的に決め工事中の塗り壁に「Sept.5」と書き込みました。

そしていよいよ訳ありのランチョーの正体が明かされる日がやってきました。その日は一方的にライバル心を持つチャトゥルが10年前に塗り壁に書きこんだ9月5日でした。チャトゥルは偶然ランチョーの居場所を見つけ彼を探し続けていたファルハーンとラージューを呼び出してシムラに向かいました。ランチョールダース・チャンチャルの家は大邸宅でした。室内の壁にはランチョーの学位証書が飾られていましたが、集合写真には別人が写っていました。ランチョーはこの家の息子の替え玉だったのです。彼は庭師の息子で“チビ”と呼ばれていました。両親が亡くなりこの家の主人が引き取り家の使用人として様々な雑用をさせていましたが、勉強好きのチビは学校に潜り込み好きな授業を受けていました。息子はそこに目をつけ宿題をやらせたり試験を肩代わりに受けさせたりしました。ある日チビが誰もいない教室の黒板に高学年の問題の解答を板書しているところを先生に見つかり主人にばれてしまいました。主人は息子の学位証書がほしかったのでチビに勉強を続けさせ超難関の工大をランチョールダース・チャンチャルの名で替え玉受験させました。学位取得後は工大とは連絡を取らないことが条件でした。ファルハーンとラージューは替え玉受験のことは秘密にすると約束してチビの居場所を教えてもらいました。住所は北の辺境地ラダックにある小学校でした。それを聞いたチャトゥルは「あいつは学校でアイウエオ・・・私は大会社の副社長だ。来週ワングル氏と何百万ドルの契約を。」と胸を張りました。ファルハーンとラージューは耳栓をしてランチョーのことを振り返り彼への敬意を深めました。ランチョーは首席で工大を卒業しましたが、1番でもビリでもよかったのです。彼は学問のためだけに大学へ行きました。それは機械が好きで工学が彼の情熱だったからです。

小学校はランチョーが創設した学校でした。子ども達は様々な個性を持って生まれてきます。自分の個性を伸ばし、なりたいものになれる教育環境こそが必要です。

ランチョーは校外の湖畔で子ども達と一緒にラジコン飛行機を飛ばしていました。10年ぶりの再会です。ファルハーンとラージューはランチョーに一発おみまいして3人で抱き合いました。そこにチャトゥルがやって来てランチョーに負けたことを認める書類“敗北宣言書”へのサインを求めました。ランチョーはあきれて「お前アホか」と言ってサインしました。サインしたペンが学長のペンだと気づいたチャトゥルは「これは勝者のペンだ。敗者が持つな!」と言ってペンを取り上げました。代わりに会社の名刺を渡し、「学校に寄付が必要なら私の秘書に電話しろ!」と言って車に向かいました。ファルハーンとラージューはランチョーの本名を聞いてチャトゥルに戻ってくるように大声で怒鳴りました。チャトゥルは「ヤなこった」と言って無視しました。ランチョーはチャトゥルに電話してこう言いました。「悪いが貴社との契約はサインできない。」チャトゥルは「そんな。なぜですか?」「ペンを持って行っただろ。」「何のペンですか?」「ウイルス学長のペンだ。」とランチョーが言うとチャトゥルは「ワングル氏?」「そうだ。」とランチョーが笑って言いました。敗北宣言書のサインを見たチャトゥルは驚愕し、「君の勝ちだ。ランチョー、いや、ワングル氏。これは参ったな。君は何かをやる人だと思ってた。」「ウソつきめ。」と言ってから逃げ出すランチョー達を「クビになってしまう。子供もまだ小さいんだ!」と言いながらチャトゥルは追いかけました。学長が前にしたように今度はチャトゥルがランチョーに優秀の証であるペンを渡す番です。今の彼に必要な言葉こそが「きっと、うまくいく」なのです。
Solidarity

Solidarity