三國

日本のいちばん長い日の三國のレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
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傑作。

昔から男子トイレ、女子トイレというのが不思議だった。小学校ならわかる。しかし大人になっても未だに“子”というのはどういう了見か。格別に騒ぎ立てたことはないけれど、腑に落ちることがないまま今に至りーーなるほど、天皇の“赤子”なのだなと合点が入った。
無論、平成生まれの僕は天皇陛下への忠誠に厚きこと、人後に落ちるものしか持ち合わせていないけれど、身の回りにある字句の一々の来歴という点では納得もいく。だから右翼ではないと、レビューのたびにエキスキューズを差し挟まずにはいられないのは何だかおかしいが、何度でもお断りをしておきたい、僕は右翼ではなく、日本というものが寧ろ何だかよくわからない。自分の生存の輪郭も基盤もあやふやな現代人に他ならない。

その前提で、本作は傑作だと感じた。
つまり、これは右寄りの思想的感動ではなしに、ーーいい映画を観たという、ひたむきな感想の筈である。
いったい誰に申し開きをしているのかね?
それは、本作にも直にナレーションとして吹き込まれている、あるイデオロギッシュな向きに対してであろうか…思うに、現代においては反戦映画としてしたためるのが本作の流通上最も勝手がいいのだろう。
しかし、そんなことはどうでもよい。
そんなものは抜きにして、どうして本作だけで、以て傑作と云ってはならないのか。

映像のテンポ、リズムーーこれが何より。
バカの一つ覚えで退勤後の憂さ晴らしに再生ボタンを押したが最後、最後まで見通してしまうとは。
退屈に満ち満ちた、現代人たる僕の半生にも落ち度はあるのかも知れんがね。
鬼才、岡本喜八ーーこの人のフィルムに触れるのは初めてだったが、是非また観たいと思ったな。

はてさて思想を一度は抜きにしてみたが、当時の、文字通り命懸けの信義行動なしに本作は決して生まれなかった。
これを僕は事実と呼ぶから、どうか街宣車の類に解されなきよう、何卒。
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