三國

ゴジラ-1.0の三國のネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

圧倒された。というのでは生温い。怯えながらフィルムから視線が逸らせない。「虫みたいに」じっと息を潜めているので精一杯だった。

鉄は熱いうちに打つに限るから、左翼だろうが右翼だろうがどちらに見なされても構わない。

5年9ヶ月前ヨーロッパ旅行の帰路、父に成田まで迎えに来てもらい北関東に向け高速道路を走っていた。当座の旅行でクタクタの故ぶっ倒れていた私が目を覚まして見つめたものは牛久大仏で、これがいきなりニュッと視界を襲ったものだから腰を抜かしそうになった。ヨーロッパで崇高な教会建築はいくらも見上げたつもりだったが、それらの印象が吹き飛んだから、きっと僕が向こうで見ていたのも崇高なんかでなく美の対象でしかなかったに違いない。それにしても、助手席で動悸を起こしている私は父から見ても随分心配に思われたろう。
あの恐れは何だったのだろうと、ずっと気にかかっていた。これまた偶然訪れた会津若松にも中々に大きな観音像があって、似たようにビックリさせられた。訪ねて行った友人も不思議な様子で「優しい顔をしている観音像の何が怖いのか」と、そればかりではない、「怖い怖いといいながら、率先して近づいてみようというのはどういうわけか」と訊ねられて、何とも答えようがなかった。身も竦むような恐怖と、吸い寄せられるような興味関心とーーこれは背反しているかも知れないが、自分の中では一心同体で決まり切ったものだった。
振り返って、小学2年生くらいだろうか、学校図書室で目にした「はだしのゲン」の一幕から、夜眠れなくなった時の恐怖にも似たような感じがある。戦争という語句に漠然と覚える怯え、小学四年生の頃には満洲引き上げを描いた「赤い月」というドラマを食い入るように眺めていた。
そう、僕は何か大いなるものに怯え、絶えず関心が惹きつけられ、かつ飢えていたのだと思う。その造形は、決まって戦争であり、巨大建造物だった。
それは幼少時にウルトラマンに親しんだ故だろうか。あるいは保育園に通うために母親から引き離された時の周囲に対する恐怖感や、小学校で悟くんに虐められて世間に不信感を覚えたことが起因しているものか。
仮説は幾らも立てられようがこの恐怖だけは本物である。それ故の興味関心も。

でーーようやくその正体見たり、という気がした。これか。「シン・ゴジラ」の時は有耶無耶になってしまったが、そしてまた「シン・ウルトラマン」の時も引いてしまったが、今回ばかりは胸ぐらを掴まれた。そう、特撮とは本来こういうものなのかも知れない。自らのちっぽけさを思い知らされる、そうした機会を僕は持ちたかったが、あるいは僕と同様の人の欲望が集まって、この文化は脈々とーー70年間も持続してきたのかも知れない。
日本に特有の文化なのかどうかはよく知らないけれど、また今回の製作意図にあったかどうかも定かではないけれど、戦後日本にゴジラを置いてみると随分と景色が見やすくなる。欠損したリアリティ、失われた大義ーーホラ、自ずと右っぽくなっていくでしょ。でもそうじゃないんだ。
じゃあ、死ねなかった特攻兵のヒュマニズムに収まるかと言えばちゃんちゃらおかしい。人間。と書いて人と人との間に在ることなどと賢しらな解説を云う前にアキコの泣き顔に触れるのがいい。百聞は一見にしかず。本を読むより先に生きてみるのが本当だ。
だから、正確には、僕が怖がっていたのは戦争であり巨大建造物でもある、現実そのものということだ。思わず知らず目線を逸らしてしまってから、それは周囲を漫然とした空気として漂いながら僕を脅かす。それに応えて僕も普段は漠然と恐縮しっぱなしであるが、だからこそ時に現実そのものから射竦められる事態に身を置きたいと、そう願ってしまうーー今回の作品の衝撃を言語化しようとしたところ、その結晶とでもいうべき趣が強いので、あくまで仮説として述べてみたまでのことです。

余談ながら、キャスティングも良かった。
佐々木蔵之介とか安藤サクラとか凄みのある役者はアレくらいに止めて置かないと立ち待ち人間ドラマに傾いてしまうから。人間はちっぽけなゴミ虫で構わないーーというゴジラさんサイドの視点が大切だから。神木くんも、ちょうどよく巧かった🪭

それに付随して、初登場シーンの恐ろしさはどうしても薄らいでしまうもの? 飛行機えいっとしようとするの、猫じゃらしに飛びつく猫みたいで、ちょっと可愛かった。もちろんその是非をいいたいのではなく、物語としては崇高とした恐怖をキチンと物語の枠組みの中に位置付けることが大事といわれれば、そうだなと思う。他方で、これは本作以外の特撮に感じることが多いが、何か問いの強烈さに対して回答が凡庸というか、極端に言えば出落ち? (「もののけ姫」も開幕が一番良かったなあ)
ここら辺の匙加減は、どうなんでしょう…ちょっと別作品も見つつ、考えてみようかな。

今年一番の映画でした。
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