この映画「哀しみのトリスターナ」は、貞淑な人妻でありながら、昼は娼婦宿に通う女の肉体と心の矛盾を、現実と幻想が交差するシュールな映像で描いた「昼顔」で、カトリーヌ・ドヌーヴと組んだルイス・ブニュエル監督が、「昼顔」以上に、ドヌーヴから冷ややかな美しさと人間存在の恐ろしさを抉り出して見せた秀作だ。
この映画の舞台は、1920年代のスペイン。16歳の孤児トリスターナは、没落貴族ドン・ロペに引き取られる。ロペにもてあそばれ、若い画家に恋し、やがてロペを死に追いやるトリスターナ。
舞台となるスペインの小さな村の閉鎖性、養父ドン・ロペの娘トリスターナに対する狂おしいまでの執着、そして、トリスターナが成長するに従って、仮面のように無表情な顔になっていく変化、そういったものが絡みあって、”重厚な悲劇”の空気を醸し出していると思う。
この女の哀しみが、憎悪、復讐へと変わってゆく、その変化をドヌーヴが冷ややかに演じて、ゾッとするような凄みのある演技を見せてくれる。
このドン・ロペに対して無表情で接するトリスターナの冷たいまでの美貌が、いっそうさえ、恐怖をあおっていくというブニュエル監督の演出が、実に見事で唸らされる。
また、彼女が見る教会の鐘にぶら下がったドン・ロペの生首の夢が、哀しい宿命につかれたことを暗示する描写も強烈な印象を残したと思う。
そして、不幸の川に流されつくした果てのラストシーンは、深い余韻を感じさせて、とても良かったと思う。