オーウェン

カプリコン・1のオーウェンのレビュー・感想・評価

カプリコン・1(1977年製作の映画)
4.8
この映画「カプリコン・1」は、SF政治スリラーの傑作だと思います。
1978年のお正月映画として「オルカ」と二本立て公開され、当時、興行の本命が「007私を愛したスパイ」、対抗馬が「カプリコン・1」と言われていたそうです。

USAのヒューストンにあるNASAは世紀の宇宙ショーにわきかえっていました。人類初の有人火星宇宙船の打ち上げが今まさに行なわれようとしていました。
発射5分前、カプリコン1号から三人の宇宙飛行士(ジェームズ・ブローリン、サム・ウォーターストン、O・J・シンプソン)がいずこともなく連れ出され、一方、ヒューストンでは無人のカプリコン1号が火星を目指して打ち上げられました。

三人の宇宙飛行士達は閉鎖された空軍基地へ連れて行かれ、格納庫に作られた宇宙船と火星のセットから全世界に向けて偽のTV放送をさせられる事になります。

かつてアポロ11号がTVの画面に月面の映像を送って来た時にあれは実はスタジオでの創作画面なんだというジョークが日本でも生まれたそうですが、アメリカでも同じ事を考えた人がいて、これがこの映画が製作される際のアイディアになったものと思われます。

しかし、それはまだ話の発端であり映画の本筋は別のところにあります。
この偽のTV放送を成功させた後、今回のカプリコン1号には何か裏がありそうだと新聞記者の一人が気付きます。
この疑惑を探り始めると途端に何者かによる妨害がありNASAのコンピューター担当の人間が突然消えてしまったり、新聞記者の車に何か細工をされて車が暴走させられたりします。

この新聞記者に扮するエリオット・グールドが敏腕そうに見えないところが実に面白く、丈夫なだけが取り柄という感じなので凄まじい車の暴走シーンの果てに川に突っ込んで助かってもご都合主義という気がしないのもエリオット・グールドの個性をうまく活かしたピーター・ハイアムズ監督の職人技の演出が光ります。

その後、実際は無人のカプリコン1号が帰還中に爆発してしまいます。
命の危険を感じた三人の宇宙飛行士は、まやかしの火星からジェット機を奪って脱走しますが燃料不足で砂漠に不時着し、別々に徒歩で逃げる事になります。

サム・ウォーターストン扮する宇宙飛行士がヘリコプターの追っ手に捕まるシーンは悲しくておかしくもあり、実に味わい深いシーンです。

エリオット・グールドの方は編集長に反対されながらも、ようやく秘密を探り出します。
編集長とのやりとりもウイットに富んでいますが、ある人物の協力で新聞記者が宇宙飛行士を助けるクライマックスのシーンは本当にクライマックスらしい爽快さを感じさせてくれ、大いにカタルシスを味わう事が出来ました。

曲者俳優のテリー・サヴァラスが新聞記者に協力する"もうけ役"で出演しているところも思わずニヤリとさせられました。

三人の宇宙飛行士の中で最後まで残るのはジェームズ・ブローリン扮する一人だけですが、後の二人の宇宙飛行士やコンピューター担当の人間がどうなったのか、最後まで説明していないところも何か不気味で薄気味悪さが残ります。

つまりこの映画は、国家的陰謀に巻き込まれた三人の宇宙飛行士の失踪の謎、事件の真相を追求する敏腕新聞記者の活躍を軸に、国家の威信の為には犠牲をも止むなしとする非情で冷酷な権力機構の恐怖を大胆な着想で描いていますが、頭脳明晰な科学者達の秘密工作を、もさっとした冴えない新聞記者が切り崩していくという皮肉さが、この映画を一級の娯楽映画に仕立てているのだと思います。
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