ささきたかひろ

浮草のささきたかひろのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
3.5
小津は苦手なんです。

小津なんて偉そうに呼び捨てるほど見てはいませんが、いや正しくは完走していませんが。。。私の映画鑑賞史においてもっとも途絶した作品が多い監督でぶっちゃけ「東京物語」と本作しか最後まで見ていません。

どうにもあの対話場面のショットが居心地が悪いんですね。
私なんかあの場面が始まると喧嘩を仕掛けられた野良猫みたいに思わず視線を外してしまうほどです。どうにも照れくさい。

けれどもこのお決まりのショットこそが物語を進めていく上で起こるであろう挿話の展開に絶大な効果を発揮しているのだとも感じている。

画面上で言い争いなどが始まったときのこの居たたまれなさはなんとしたことだろうか...あらかじめ積み重ねられたあの対面ショットの連続が、場面展開に恐ろしいほどの臨場感を与えていることにやっと気がつくことができた。映画の中の出来事なのに他人事ではない葛藤や焦燥が生まれた。

お話としては「嘘はついちゃいけません」これに尽きるわけで、人間素直に正直に生きなきゃだめだよなと思わず襟を正しました。

主演の中村雁治郎はもちろんのこと、嫉妬心から身を滅ぼす京マチ子の情念の演技、三井弘次のダミ声、田中春男のお家芸とも言えるしょーもな感も堪能できます。

あ、それから若尾文子さんにあんなふうに言い寄られたら川口浩も探検そっちのけで夢中になりますわな。。

小津アレルギーを一歩克服できた作品でした。
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