Jun潤

ゴールド・ボーイのJun潤のレビュー・感想・評価

ゴールド・ボーイ(2023年製作の映画)
4.1
2024.03.12

岡田将生×羽村仁成。
黒木華、北村一輝、江口洋介出演のほか、監督は実写版『DEATH NOTE』シリーズの金子修介、脚本は『正欲』の港岳彦。
昨年『リボルバー・リリー』にて銀幕デビューを飾ったジュニアの羽村仁成が、『ドライブ・マイ・カー』にて世界へ羽ばたいた岡田将生とタッグを組む。
中国の大ヒットドラマ『バッド・キッズ』の原作『悪童たち(邦題)』を原作として、中国のスタッフと共に日本に舞台を換え映画化。

沖縄県、読谷村。
岬の上で、東昇は義両親を突き落とした。
被害者夫婦は大手地場企業の東ホールディングスの会長とその妻で、昇が周到に準備して反抗に及んだことから、事件は彼による殺人ではなく事故として処理されようとしていた。
一方、中学生の安室朝陽は、クラスメイトの自殺直後に夏休みを迎えていた。
そんな朝陽を、かつての幼馴染・浩と義妹の夏月が訪ねてくる。
夏月の父親は、経営していた民泊で殺人事件が起き、その犯人として疑われて自殺していた。
そんな夏月に対し、浩の父親は罵倒と共に性暴力を加えようとしており、反撃の拍子に腹を刺し、逃げてきた彼らは朝陽を頼る。
浩は義妹の犯した罪に高揚したり、金欲しさにすれ違った学生にカツアゲをしたりするなど行動と考えの浅さが目立つ。
対照的に冷静な朝陽は、自壊的な夏月と浩を匿い、行動を共にしていた。
朝陽たちが海で遊んだ日、写真を撮っていた彼らは、偶然にも昇の犯行の様子を動画に収める。
そして朝陽は、殺人の証拠をネタに昇から大金を要求する。
昇を脅す朝陽と、朝陽たちの予想以上に罪を重ねていく昇の駆け引きの先に待ち受ける結末とはー。

これが令和の『DEATH NOTE』か!!
まさにキラvsキラのように、自分にとって邪魔な存在を容赦なく、しかし狡猾に消し去ろうとする昇と朝陽。
どちらが勝ち、どちらが負けるのか、この勝負、勝つということ、負けるということが何を指すのか。
そこまで考えを馳せたくなる奥行きと広がりのあるキャラクターとストーリー。
ご都合とか、そんな上手くいくのかとかいうツッコミは、写実的な作品であれば発生していたかもしれませんが、少年マンガを読んでいるような感覚で、昇と朝陽のどちらが勝つのかに焦点を絞っていればさほど気にせずに済みました。
そもそも今作は、東ホールディングスが多様に事業を展開し、地元住民の生活と雇用の地盤になっているだけでなく、退官した刑事たちの再就職先にもなっているということで、詳細な捜査も望めない、島全体が巨大なクローズドサークルになっているような舞台設定だったために、そうしたクライム・サスペンスとして考証する際の要素を最低限に絞れていたのだと思います。

また、今作はなんと言っても大人と子供の対立構造が大きな軸となっていました。
しかもそれは単なる年齢の違いだけでなく、親と子の、的外れな信頼や歪んだ執着にも描写が及んでいました。
それらは、刑事と犯人ではなく犯人と犯人による心理戦に入り込んでくるものとして、先の展開を読めなくする役割を担っているのだから、どの場面、どのキャラクターからも目が離せない。
序盤のうちから子供が大人は嘘をつくものとほぼ正解に近い決めつけをしていたり、子供の本当の姿を大人に見せないなどしたりしていて、朝陽たちを取り囲む大人の複雑な人間関係だけでなく、細かい描写で対立を描いていました。
コーヒーにガムシロップを入れていたのを隠していたことも見逃せませんよそりゃあ。
個人的には、殺人の証拠を握られていることや、自分と朝陽の思考回路が似通っていること以外の部分で、昇が子供たちのことを見下したり舐めてかかったりするなど子供扱いをしていないことが今作の緊迫感を生んでいると思いました。
そしてそれに見合うだけの立ち居振る舞いを朝陽がしていたことで、大人と子供の対立構造を最後までシリアスに描けていたんだと思います。

演技については作中の昇vs朝陽と同じく岡田将生と羽村仁成の演技合戦でしたね。
上述の通り『リボルバー・リリー』で存在感を発揮していた羽村くんでしたが、相手は世界の岡田、果たしてついていくことができるのかというこちらの心配を軽く超えてくるどころか、更なる成長と今後への期待、朝陽ともリンクして歳上だからといって決して侮ることも無視することもできない演技を魅せてくれました。
印象に残ったのは長回しのシーンですね。
岡田将生の方はその高い演技力から期待通りに長回しの場面でもセリフや表情を維持していましたが、そんな彼を相手にするとなると相応の演技力も求められるというもの。
そこに羽村仁成は全く見劣りのしない、それどころか朝陽と同じく逆に手球に取っているような演技を魅せてくれました。

ストーリーの落とし所としては個人的にどちらかの大勝利で終わっても良かったと思いますが、そこは娯楽作品ですし、ちゃんと因果応報というか勧善懲悪というか、完全犯罪などはなくどこかで綻びが生じて罪に対して罰を受けなければならないというところまで描いていました。
しかもそれが裏切りやミスというものではなく、夏月が朝陽のことを男として深く想っていたからこそ、朝陽の母が息子のことを深く愛していたからこそ生じた綻びが、安室朝陽という“悪”を追い詰める最大の要因になっていたことがまた、良いですねぇ……。
Jun潤

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