ささきたかひろ

ミシシッピー・バーニングのささきたかひろのレビュー・感想・評価

ミシシッピー・バーニング(1988年製作の映画)
3.4
「ミッドナイト・エクスプレス」を撮ってからのアラン・パーカーのフィルモグラフィーは非常に充実していて、例えば「バーディー」では鳥の視点で撮影するために広大なセットにワイヤーを張り巡らしリモート動作を駆使しあの流麗な映像を撮ったりと(今ならドローンで簡単に撮れますね)最新テクノロジーを映画に取り入れることにも貪欲な鋭さのある映像作家だった。

しかしこの作品は主題からしてあからさまにオスカー狙いであって、史実の改竄を指摘されてしまうなどどうもいつものアラン・パーカーの鋭さがうまく発揮されていない気がしたものだ。

ジーン・ハックマンは安定の名演だし、人気急上昇中だったウィレム・デフォー、フランシス・マクドーマンドなど演技派揃いで見どころは多い。(ハートマン軍曹ことリー・アーメイも出ている)

アメリカ南部を舞台に作品を撮ったのは、オカルトハードボイルドの金字塔でもある前作「エンゼル・ハート」に感化されたところがあるのかもしれないが、如何せんイギリス人のアラン・パーカーには人種差別問題を自分事の主題として引き寄せるのには限界があったのではなかろうか。

それを証明するかの様にアラン・パーカーは次作において再度、米国史において恥辱的な人種差別問題である「日系アメリカ人捕虜収容所」を舞台とした作品である「愛と哀しみの旅路」を撮るのだが完全に数多ある「愛とナンタラのウンチャラ」シリーズに埋もれてしまう凡作だったし、つくづく名誉欲というものは人を惑わせるものだなと思ったものだ。

アラン・パーカーは鈍になっちゃたのかと忘れかけていた頃、自国イギリスと領土問題を抱えるアイルランドを舞台としたいわば自分事である「ザ・コミットメンツ」で驚くかな「フェーム」を撮った頃の様な瑞々しさで音楽群像劇を世に放ち、思わず破顔したのを思い出す。

もう一本新作を見てみたかったですね。
ささきたかひろ

ささきたかひろ