Jun潤

PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~のJun潤のレビュー・感想・評価

3.4
2024.03.11

奥平大兼×鈴鹿央士。
昨年日本産のゲームが現実に影響を与えた実際の話が基となった『グランツーリスモ』が公開されましたが、今作も実話を基にしており、邦画としては初のeスポーツもの、そして男子高校生たちの青春と交差するストーリーということで、期待値を高めて鑑賞です。

徳島県、阿南工業高等専門学校。
2年生の郡司翔太は、父親はろくでなし、母親は家事もせずにゲームばかりしていて、2人の弟のうち一人は軽度の障害を持っている家庭で暮らしていた。
3年生の田中達郎は、学力は優秀なものの、手首を痛めたことからバスケを辞めており、母親は働きずめで自分のことを顧みず、父親は帰るなり酒を飲んで寝てばかりだったが、コンピュータゲーム「ロケットリーグ」で日本トップの実力を持っていた。
そんな彼らと、オタクな小西亘の3人がチームを組み、「全国高校eスポーツ選手権」に出場することに。
「勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」をキャッチコピーにしたこの大会で、3人は何を手にするのか!

全国高校eスポーツ選手権第一回大会のロケットリーグ決勝トーナメントに出場した「kamase dogs」がおそらくモデルで、もしかしたら作中のような人間関係だったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない、チームのメンバーの家庭環境も忠実に再現していたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
けどそんなことはどーでもよくて、「勝つとか負けるとか」以外にも「父親と母親」「夫と妻」「障害の有無」あとはもしかしたら「男と女」などの現実の問題を「どーでもよい」ものとして、自由な遊びの場を求めてもがく男子高校生たちを描くストーリーとしては面白みもありました。
しかし変にドキュメンタリーっぽく作っていたためか、それともモデルに忠実に描き過ぎていたためか、登場人物たちの背景にある要素を小出しにしている割に、それぞれ描ききれていなくて中途半端な印象が残る作品でもありました。
それこそeスポーツといえば、今作の序盤で言及されていましたが、ゲームばかりしてとネガティブに捉えられたり、将来のことを考えていないと思われたりしていて、まだまだマイナスに取られがちな題材を扱うからこそ、そこをプラスの方向に持っていく話の流れがもう少し欲しかったところ。

なので今作は翔太と達郎のダブル主人公というよりも、二人の視点から見たeスポーツの大会そのものが主人公の物語、と捉えた方がいいのかもしれません。
翔太と亘が決勝に進むまで面識が無かったり、大会の出場者には性別も国籍も障害の有無も関係が無かったりして、誰もが平等に競い合っていくことができるというeスポーツの面白さと社会的意義、厳しさを伝えていく作品としてはよく出来ていたと思います。

それに翔太と達郎にしてみても、鑑賞中は二人が何を求めて大会に出場するのか、どうして勝ち負けにこだわらないのかをなかなか描かずにいて、これはどうするんだろうと思っていましたが、もしかしたら二人ともそんなことは考えてもいなくて、ただ仲間と一緒のことをして、そんな自分を周りに見て欲しかったという欲求しかなかったのかもしれません。
実在のチームのことは置いといて、翔太と達郎は大会を経て、もっと勝ちたい、もう負けたくないと考えたのか、それともこの大会を通過点にして、自分の心を「勝つとか負けるとか」みたいな相反する二つの要素の間で動かすのではなく、より自由な気持ちで将来へ進んでいこうという気持ちになったのかもしれないと思うと、青春映画としてはなかなかの出来栄え、もう少し分かりやすくキラキラしていたら個人的にはもう少し好きになれた。
翔太と達郎が家庭環境で悩みながらロケットリーグの練習に臨んでいる側で、比較的恵まれていそうな家庭で暮らしていた亘が急に覚醒していたのは、変にヘイトを溜めずに二人との対比関係を描いていて個人的には一番好きな場面です。
Jun潤

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