あんず

悪は存在しないのあんずのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8
これまで観て来た濱口監督の作品はほぼ好きだったので、とても楽しみにしていた。睡眠もバッチリ、体調も天気も良い日に満を持して観に行ったのに、なかなか話が展開しないので睡魔に襲われてしまったり、話が動き出してもいつまでも面白いとは思えなくて、終わった瞬間は「え?何だったの?」が率直な感想。今回は残念ながら相性が良くなかったんだなと思った。

でも、ラストの捉え方とかあちこちに散りばめられた違和感をぐるぐる考察したり、ずっと映画のことを考えている。監督自身も人それぞれ解釈が違って良いし、色々考えるように意図して作ったみたいなので、まんまと術中にはまっている。また観たいとさえ思っている。

色々考えたことの全ては書けないので、今回は劇中に出て来た静と動の印象的なショットの「だるまさんがころんだ」を基に考察してみた。「だるまさんがころんだ」は他の鬼ごっこと違い、基本的に鬼は自陣から動かない。人間は鬼から逃げるのではなく、鬼が見ていない時だけ鬼に近付ける。動くことではなく、動かないことを求められるゲーム。鬼の陣地に人間が入った時、そのバランスは崩れる。誰もが知っているこの遊びのルールを改めて調べた時、あれ?これって映画のテーマと同じじゃない?と思った。

これまで多くの濱口監督作品から、対話を通じて他者を理解することや他者を通じて自分の本当の気持ちに気付くことの大切さをテーマとして受け取ることが多かった。でも、今回は対話の出来ない自然が相手。そんな時、どうなるのか?

人間が気付かれぬよう鹿に近付いて鹿の陣地に入らないうちは良いが、鹿に近付いている所を見られたり、陣地に入り込んでしまった時にはバランスが崩れ、何かが起こる。そして、人間だって自然の一部で自分の陣地(物理的だけでなく精神的にも)を他者に侵された時、善悪の判断はつかなくなり、本能に従って行動することもあり得る。そもそも自然の中には悪も善も存在しない。ただ、自然の法則があるのみ。

日常生活の中でも、自然とのバランスが崩れているなと気付くことが最近よくある。もっと謙虚に生きなければ恐ろしいことになりそうと感じてはいるけれど、何も行動は出来ていない。政策への批判も含め、私たちへ警鐘を鳴らしているのだと思った。

この人見たことあると思ったら『ハッピーアワー』の人たちで、また会えたのは嬉しかった。

ここには書き切れなかった気になること、疑問などをコメント欄にネタバレでどんどん書いて行く予定。付け足しのコメント歓迎です。
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