やべべっち

悪は存在しないのやべべっちのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

濱口竜介の問題作。だが恐らく今年のベスト5には絶対入ってくる映画。

凄く良かったが友達に勧められる映画かと言われると人を選ぶと思う。カンヌを撮った世界的な濱口竜介の映画だが普通のシアターで公開すると酷評された筈だ。だからミニシアターでコアな映画ファンにだけ見つけられるようにしたのは正解かもしれない。

友達の女の子で「君達はどう生きるか」が「わけわからんかった」と言っていたのを聞いて、ああある程度以上この子とは仲良くはなれないなと思った。彼女にも勿論この映画は勧めない。

「Evil does not exist」
ゴダールをオマージュしたこのカラフルな始まり、そして10分以上続く下から見上げた森の景色、延々と見させられたその景色は脳の中の血管のようにも見えてくる。そして銃声。

この水が綺麗なこの長野の田舎町に芸能プロダクション会社がコロナ助成金を使ってグランピング施設を作る計画が持ち上がる。高橋とマユズミが説明するその計画は穴だらけでコテンパンにやられる。彼らが東京で社長とコンサルとzoom会議している様は普通の日本の会社でもあるあるで勤め人なら爽快に思えただろう。劣化したコンサルや上司は情報と情報を掛け合わせて結論を出したがる。

そしてマユズミと高橋の再び現地に戻る車内の会話も絶妙にあるあるで可笑しい。この映画は謎や深遠なテーマを含んでいながら随所に娯楽映画的面白さも含んでいる。都会に疲れた都会人が田舎に憧れる時ってこんな軽い気持ちよねーと6年間田舎に転勤してきた自分は思う。

そして最後のシーン。巧の高橋に対するスリーパーホールドは何だったのだろう。色々なレビューを見たが巧が高橋を殺した事と解釈している人が多くビックリした。人間スリーパーホールドくらいでは死なんよ。落ちるだけ。実際ヨロヨロっと高橋は最後起き上がっている所が映し出されている。

鹿は臆病で手負いでなければ襲って来ない。じゃあグランピング施設作ってもオッケーじゃんみたいな話をマユズミと高橋がした時に巧が「じゃあ鹿は何処へ行くんだ」と聞いた時に高橋が「何処か別の所へ行くんじゃないですかねー」と言った時に巧はこの人達はこの街に居着いてはいけない人だ⇨殺すってなったのだという解釈をする人がいて成る程そう取るのかと思った。

手負いの鹿がハナを襲うのを止めなかったのは巧が大自然の中の「バランス」を保とうとしたのだと思う。このバランスという言葉は曲者でコンサルが考えるバランス、高橋やマユズミが考えるバランス、巧が考えるバランス、そして自然界そのものが持っているバランスが恐らく違うのだ。それはもうどうしようもない話なのかもしれない。