Jun潤

落下の解剖学のJun潤のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.5
2024.03.04

予告を見て気になった作品。
第96回アカデミー賞にて、作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネート。

とある雪山の山荘にて暮らす小説家のサンドラ。
過去の事故が原因で視覚障害を持つ息子のダニエルが遊びから帰ってくると、転落死している父を見つける。
サンドラは旧知の弁護士・ヴァンサンを頼るが、警察の捜査では他殺の可能性も否定できないという結論に至る。
裁判は転落死の一年後も続いており、サンドラと夫の間にある確執について追求が及んでいくー。

なるほどそういう作品でしたか。
予告の感じからてっきりサスペンスやミステリー色の強い作品かと思っていましたが、今作はフランスの映画ということで、真相を究明していくというよりは、事件(事故?)に関わる人の証言が様々な角度から語られていく、法廷会話劇。
法廷というある意味特殊な場で、夫婦や家族といった限りなく個人間の人間関係について追求していくことで、刑事裁判のはずなのに、物的証拠もなく、人間関係が原因んで起きた状況証拠を吟味していくストーリー展開。

サンドラの証言を信じ続けると、事故もしくは精神的に追い詰められた夫が自ら死を選んでしまったことが真相ということでカタがつきそうですが、検事の追い詰め方やサンドラと夫の関係性的にそうとも言い切れないのがまたもどかしい。
サンドラの夫の目線に立つと、どうしても共感したくなる部分があって、過去のトラウマから精神状態が安定し辛かったり、夫として妻に対して劣等感を抱いてしまったり、夫婦関係に亀裂が入っていたことも明らかになったりなど、本当にサンドラは何もしていないのか、それを証明できるものが何もないのだから、作中の登場人物はもちろん、観ている側も自信を持って判断ができないということが今作の肝だったのかと思います。

英題と邦題にある『解剖学』というのは、個人的な解釈として、『落下』という事象に対し、物的証拠もない中で人間関係から解剖を進めていき、最後に残るものを明らかにしていくという今作に対してはとてもピッタリなタイトルだったと思います。
最後に残ったのは、優劣のない対等な夫婦関係の証明だったのか、夫婦同士で殺し合うことなど会ってほしくないという息子の願いだったのか。
ラストでは不起訴?サンドラが殺人犯として罰を受けずに済んだという場面で閉まりましたが、サンドラに待っているのは決して明るい未来ではなく、夫殺しの汚名ではなく、夫が自殺してしまったという事実と向き合っていかなくてはならないという、苦々しい印象が残る終わり方でした。
Jun潤

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