Ryu

ネクスト・ゴール・ウィンズのRyuのレビュー・感想・評価

3.7
自分たちに自信のない弱小チームと色々訳あってチームの立て直しを任された一人の監督が紆余曲折しながら互いを認め合い、成長しながら最後に奇跡を起こすというスポーツ映画の王道的ストーリーであるものの、そこはタイカ・ワイティティ監督作品、それだけではない。

本作はスポーツ映画でよく描かれる努力、挫折、そして成功といったテーマに加え、文化、宗教、LGBTといった社会的なテーマも扱われているのが印象的であり、そこが他の作品とは一味違う作品として特徴づけている気がした。ただ社会的テーマを扱うとはいえそれを重く、そして慎重に描かないのがタイカ監督の良いところなのかなと思う。思い出せば『ジョジョ・ラビット』ではナチスというタブー級の重く暗いテーマをブラックコメディ調に軽いタッチで描くことで、内容自体は決して明るく楽しいものではない一方でそこにあるメッセージを受け取りやすいものしていた。本作はもちろん『ジョジョラビット』ほど重い内容ではないものの、軽いタッチで先述のような社会的テーマやメッセージを受け取りやすくしているように思えた。

また本作は一見コメディに前のめりな作品とみせかけて、重厚なヒューンドラマが描かれているのも印象的だった。それぞれ異なる思いを持って、弱くても奮闘するサモア代表の姿や暗い過去を背負いプライドと弱さの間で葛藤する監督の姿がそれぞれ丁寧に描かれつつ、そんな彼らが時にぶつかり合い、時に認め合いながらまるで一つの家族のように団結していく様子が温かく表現されていて、観ている側もつい応援してしまいたくなる。

また台詞の一つ一つもストレートと特別捻りがある訳ではないが、いやだからこそ凄く刺さるものが多かった。個人的には"魚のマリネ"の話はシンプルながら、今の自分に凄く刺さって、何か気付きを与えてくれた気がした。

とにかくゆっくりで温かく、それでいて心熱くなるような良い意味で何もかもが丁度いい作品だった。もし一味違うスポーツ映画を探しているなら間違いなくオススメの一本!
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