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夜明けのすべてのRenのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
三宅唱作品を初鑑賞。松村北斗ファン、上白石萌音ファン、社会で何か一つでも生き辛さを抱えたことのある人は映画館で観てほしい。つまり全員映画館で観てほしい。

PMS(月経前症候群)を抱える藤沢(上白石萌音)とパニック障害を抱える山添(松村北斗)が出会い、日々を過ごす、それだけのヒューマンドラマ。それだからこそ素晴らしい。

言葉選びが難しいけど、「①障害や発作をエンタメ表現として消費していない」「②恋愛(異性愛)中心の価値観やお涙頂戴(下品に言えば感動ポルノ)で物語ひいては人生を閉じていない」「③旧世代/新世代、マイノリティ/マジョリティの分断を煽ってドラマを加速させない」が徹底されていて、安心して身を任せられた。原作未読のためどこからが映画の功績かは分からないが、このような共通認識がスタッフとキャスト間で為されているだろうことが想像できるだけで信頼できる。

①俳優の演技を見せつけるように繰り返したり、そのシーン自体をショッキングに演出したり、センシティブに話題にしてやろうという下衆さが無い。ありがたい。
② 距離を縮める藤沢と山添を、付き合ってるのか的に茶化す下りが一切無い。ありがたい。支え合う男女⇒恋人、という価値観も意識的に脱臭されている。
③ 団塊世代が病を根性論の文脈で揶揄したり、「アットホームな中小企業」「冷たい大企業」といった謎ステレオタイプも無い。ありがたい。

藤沢と山添が中心にいる作劇ではあるのだけど、過剰に彼らを追体験させたり、彼らを感情移入させるための「物語の乗り物」として使っていないのも良い。他人は他人だと一線が引かれている。ドキュメンタリーのためにカメラを回す中学生たちも同じような意図で描かれているのだろう。藤沢の語りで進むかと思いきや、物語は地の文ベース。

決して焦らず、じっくりと、カウンセリングやヨガのようにじんわりと辛さを解していく、「歩み寄り」の映画。『ぬいぐるみとしゃべる人がやさしい』が「話す」ことの映画だとしたら、今作は「居る・在る」ことの映画だと思った。
天体のモチーフが分かりやすい。存在は何百光年も先にあるが、星があるということは確認できる。星があることは確認できるが、動いているのは地球つまり自分たちである。何かも分からぬ星を方向の目印にしたり線で繋いで星座に見立てたりしている。
自分たちは、そこに他者が居ることは確認できる。何か辛さを抱えているのかもしれないと考え、その他者を慮るというアクションを起こすのは自分である。そんな歩み寄りが、その他者にとって救いになることだってある。
まずそこに居る相手に目を向けること。そこからコミュニケーションの形を作っていくこと。その距離感を弁えて実践している人たちだからこの映画は優しいんだと腑に落ちた。

粒子の粗めな映像はやはり16mmフィルムの賜物らしく、人肌の温かみを伝える上でベストマッチしている。単純に自然光も夜景も美しい。主演2人の声が抜群に良いのも優しさを加速させている要因の一つだと思った。

物語は唐突に終わる。というか終わらない。これからも、そうやって生きていってほしいし自分もそうやって生きていこうと思える。エンドロールの時間は物語を区切るものではなく、物語を現実世界と接続させるための待ち時間としての役割もあるんだな....。
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