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ハッピーボイス・キラーのRenのレビュー・感想・評価

ハッピーボイス・キラー(2014年製作の映画)
3.0
「統合失調症の男の懊悩を描いた殺人鬼映画」と「犬も猫も生首までも喋り出す、ポップでカラフルなライアン・レイノルズ主演のサイコキラー映画」のどちらのほうが求心力があるかという話で、企画意図はとてもよく分かるし成功していると思う。

ピンクのツナギにターコイズブルーの愛車。美形のヒロイン。賢そうなワンちゃんと可愛いネコちゃん。あらすじを知らずに観始めた人なら愉快な映画と錯覚しそうなルックは次第に、ジェリー(ライアン・レイノルズ)を取り巻く世界はせめてこうであってくれという祈りを含んだものであると分かってくる。

キワモノな設定の中で孤独や疎外感に苛まれる男を多々演じるライアン・レイノルズ(『[リミット]』『フリー・ガイ』)の今作への起用は理に適っている。ジェリーはある凶行に及んでしまうが、そのバックグラウンドが明かされていくにつれ、彼のコメディ俳優としてだけではない側面の魅力がじわじわと引き出されていく。

主観と客観で世界が見違えるほど変化するのはベタ演出すぎるが、この設定の映像表現としてはやはり効果的と言わざるを得ない。孤独になりたくない、孤独ではないことに気づきたくない、という願望から主観で世界を創り上げている人物なのだから、客観にカメラが切り替わった瞬間に思わずゾッとしてしまうのは当然だと思う。

その成れの果てが衝撃(笑撃)のエンドロールだ。そもそも実体の無い世界なら、全てを理想に塗り替えられる。殺しという悪行の結果崩壊した世界とジェリーの夢物語がビタリと繋がったクライマックス。(結果的に)救われて(しまって)良かったね、と思った。

その他、
○ おそらく『ピッチ・パーフェクト』が最も有名なアナ・ケンドリックの今作への起用も、もしかしてあれがやりたかったからなのか....?
○ 2016年公開でよかったと思う。もし2019年以降だったら「ライアン・レイノルズ版『ジョーカー』」などという雑な謳い文句が広がっていた可能性も無きにしも非ずか。
○ Fワード連発の悪いネコちゃんのMr.ウィスカーズをそれでも推す。
○ 動物が無事じゃない場面は前半にやってきます。突然。
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