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水深ゼロメートルからのRenのレビュー・感想・評価

水深ゼロメートルから(2024年製作の映画)
4.0
高校演劇の商業映画化プロジェクトとしては『アルプススタンドのはしの方』に続く2作目。青春映画、会話劇、女性群像劇の全ての要素が多感な高校生の手によって接着された良作だった。この脚本を元々は高校生が書いたのがまず凄いし、イニシエーション真っ只中の思春期の感性が良い方向に転がっている。

補習で集められた女子生徒たちは水の抜かれたプールに集められ、底に溜まった砂の掃除を命じられる。掃けども掃けども風に乗って野球部のグラウンドから砂は飛んでくる....。
舞台の一幕劇としてこの設定を思いついた時点で、作品としての強度は保証されたようなもの。ぐるぐると巡る脱力した会話は次第に答えの出ないディベートの様相を呈し、(砂を)掃いても(心情を)吐いても延々と終わらない袋小路に女学生を閉じ込める。ここまで及ぶか、と驚くほど話は広がる。

なぜプールを休んだのか?なぜ補習に来ていたのは女子だけなのか?徹頭徹尾女子であることに主軸を置き、この時代に女子として生きることについて、大人ほどの自由も無い学生が丁寧に着実に解きほぐそうとする。
女子だから、スポーツで男子に勝てない。女子だから、男子を支えるマネージャーをする。女子だから、そのマネージャーに相応しいか否かをジャッジされる。女子だから、メークをする。でも女子高生だから、そのメークを制限される。当時は何も思わなかった学生の日常の一つひとつが、「女子であること」の目線を付与されて再現されていく。

一つの正解に当て嵌めることをカタルシスとせず、答えは無数にあっていいとした上で「男/女の意味不明な壁は無いほうがいい」という広義の共通認識は獲得していくのがとても誠実だと思った。高校生時点で一旦は完成された脚本なので、「これが現時点での私の考えです」という少しの成長がクライマックスになるのは必然な気もする。

『アルプススタンドのはしの方』は劇場鑑賞時は感動したけど年々自分の中で評価が下がっている。自分たちの意志とは別に引っ張り出された行事で、結局学校側の都合に取り込まれることがカタルシスになっちゃってるじゃんという危うさに気づいたから。
今作は権力側(大人や教師)に懐疑的・反抗的である視線を忘れず、自分たちなりの答えを模索する姿勢に好感が持てた。好きな作品。

その他、
○ ラストカットが気持ち良い。
○ Base Ball Bearの『「それって、for誰?」part.2』という曲を思い出す。「砂漠に水を撒こう/渇くとわかってても/プールに混ぜるのはごめんだ」という歌い出しからして少しそれっぽい。
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