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異人たちとの夏のRenのレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
3.0
『異人たち』に向けて初鑑賞。原作は未読だが、80年代邦画の匂いと大林作品特有のセンスオブワンダーが不思議に絡み合っていて思った以上には楽しめた。

テレビドラマの脚本を書いて生活する主人公が、亡くなった両親と謎の女性、2組の異人と邂逅する。
無機質な人生を写した寒色の角ばったマンションの一室と、暖かいノスタルジーと人情を写した暖色の家。対照的なロケーションを頻繁に行き来するおかげで飽きずに観られる。映像で説明するとはこういうことだし、暖かい過去が冷たい現実に侵食していくことがハートウォーミングなヒューマンドラマとサスペンスホラーの2つの顔を覗かせる脚本も面白い。
触れられる筈のなかった異人との交流を通し、今における人との関わりの温かみを取り戻すという真っ直ぐなドラマとして意味がとても分かりやすい。

近年の『aftersun/アフターサン』も想起した。多感な時期に交わすことの出来なかった両親との様々な会話や交流を、人生半ばにして取り返すことの切なさと優しさの話。

今半のシークエンス以降に顕著な、現実を跳躍するような表現は確かに『HOUSE』の大林エッセンスを感じられて、この時代のジャンル映画のナニコレ感として可愛げがあったと思う。が、今半がクライマックスでそれ以降が蛇足っぽいという感覚は正しいはず。

実はオープニングクレジットが一番好きだ。左下に四角く小さく画面が映り、右側の大きな黒い余白にスタッフが表示されていく。そういうちょっとダサめの編集か〜とボーっと観ていると、次第にそれが真っ暗な部屋とブラウン管だったことが分かる。生活感の薄い空間、そこにライスワークとしてのテレビドラマだけが映っている、という状況自体がとても示唆的でもある。
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